モノと「モノ」(その3)
「聴こえるものの彼方へ」には「音楽の値段」という文章がある。
オーディオを通して聴く「音楽の値段」は、レコードの値段ということになる。
ずっと以前はSPの値段、それからLPの値段になり、1980年代からは、それはCDの値段ということになる。
レコードの値段=「音楽の値段」とすると、ふしぎなことに誰もが気がつく。
レコード1枚の値段は昔も今も、LP時代もCD時代も、そう大きくは変動していない。
さらにぽっと出の新人のレコードの値段も、大ベテランのレコードも値段も同じであり、
ピアニストが一人で録音したレコードの値段も、
オーケストラと歌手と合唱団を必要とするオペラのレコードも値段は同じ。
レコード1枚の収録時間も長短あるけれど、これも同じだ。
音楽のジャンルに関係なく、レコード1枚の値段は、基本的には同じである。
つまりこれは、そのレコードに収められている音楽の値段ではなく、
レコードというパッケージメディアの値段でしかない。
収録にかかる費用は、音楽のジャンルや演奏家のキャリア、それに音楽の規模などによって大きく異るが、
それがレコードの値段には反映されない。
反映されているのは、LPなりCDを作る費用である。
となると、レコードの値段を「音楽の値段」とイコールにできない。