BOSE 901というスピーカーのこと(その7)
ステレオサウンド 82号に、菅野先生の「ボーズ訪問記」が載っている。
この項の(その3)で、
《いわばシグナル・トランスデューサーの概念に対してアコースティック・トランスデューサーの概念で作られたものなのだ。》
スイングジャーナル 1977年7月号のSJ選定新製品で、
菅野先生が901 Series IIIについて書かれたことを引用している。
アコースティック・トランスデューサーを、どう考えるか。
ここにつながることが、「ボーズ訪問記」にある。
*
私は良い音にとって三つの要素が重要だと考えています。まずバランス。各周波数帯のエネルギーバランスが重要です。次にコンサートホールの空間的アスペクト。各方向からどれだけのエネルギーがやってくるかということですね。コンサートホールではほぼ全方向から音が飛んできますから。それに時間差です。たとえばオーケストラを聴いているとすると、いろんな方向に反射して200ミリから500ミリ秒の遅れが出ます。今いるこの小さな部屋なら20〜50ミリ秒ぐらいでしょう。これらをスペクトラム(Spectrum)、スペーシャル(Spacial)及びテンポラル(Temporal)と呼んでいます。こういったことはホールの重要な要素ですが家庭では実感できません。規模が小さすぎるからです。けれども我々はどれだけナマの音楽に近づけるかということはできます。たとえばスピーカーのバランスや指向性をよくすることはできますが、時間差を与えることはできません。この三要素を家庭でどこまで再現できるかが、ナマの音にどれだけ近づけるかということです。周波数のエネルギーバランス、音のリスナーに届く方向という二点はかなり現代の技術です可能なことですが、テンポラル、つまり時間差の面ではいかんとも難しい問題があります。ディジタルを使った遅延装置等が開発されていますが、これとて所詮スピーカーを通した部屋の特性に限定されてしまうのです。物理的に不可能な点がここにあります。したがってもしここに絶対のナマの音というものがあれば、我々は限りなく、自その点に近づいてもそこには到達出来ないという事です。
もし絶対のナマの音がと言いましたが、これも確たるものとは限定できない。人間の感性は動きますからね。
*
ボーズ博士の発言だ。
ステレオサウンド 82号は、1987年春に出ている。
この時は、まだ編集部にいたけれど、この記事への反応は薄かったように思っていた。
どれだけの読者が、この「ボーズ訪問記」を熱心に読んでくれたかは、なんとも言えない。
だから、引用したところを読んでなんらかの関心を持ったならば、ぜひ全文を読んでほしい。