Westrex 10Aのこと(その1)
私がウェストレックスの10Aというカートリッジのことを知ったのは、
ステレオサウンド 46号の「クラフツマンシップの粋」だ。
この頃のステレオサウンドでは、過去の名器を鼎談で取り上げていた。
46号では「フォノカートリッジの名門」で、井上卓也、長島達夫、山中敬三の三氏によって、10Aを含めて、
いくつかのカートリッジ について語られていた。
この記事の最初に登場するのが、ウェストレックスの10Aであり、
こんなカートリッジがあったのか、という驚きが最初にあった。
記事を読めば読むほど、聴いてみたいというおもいは強くなる一方だったけれど、
そんな機会がすぐに訪れることはないだろう、ぐらいのことはわかっていた。
それからしばらくして池田 圭氏の文章にも、10Aのことが登場していた。
そこには、正月だけに聴くカートリッジ、とあった。
そういう存在なのか、と思った。
「フォノカートリッジの名門」には、ノイマンのDSTについても語られている。
アメリカのウェストレックス、ドイツのノイマン。
どちらもカッターヘッドを作っている会社であり、
原盤検聴用としてのカートリッジということは、
モニタースピーカーならぬモニターカートリッジなのか、という受け止め方もしていた。
DSTは幸いなことにハタチごろにステレオサウンドの試聴室でも、
自分のシステムでもじっくり聴く機会があった。
DSTとDST62の比較試聴も、時間をかけて行えた。
この時のDSTの音も、ほんとうにすごかった。
すごい、という言葉が、真っ先に出てくる。
隔絶したすごさの音を聴いてしまうと、すごい、としか言いようがない。
そのDSTよりも10Aはすごい──、
ある人は、そう言っていた。