Date: 11月 7th, 2023
Cate: ショウ雑感
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2023年ショウ雑感(その16)

「告白」を聴いたのは初めてだった。
だから冒頭で電話のベル音が鳴るのを知らなかった。

Audio Necの電話のベルは、どきっとするほどリアルに感じられた。
そして聴いているうちに、録音スタジオのマスタリングルームでは、
こんな感じで鳴っているのではないだろか──、
そんなことをおもっていた。

モニターオーディオのPlatinum 300 3Gでのベル音は、
二度目ということもあって、どきっとすることはなかった。

順番だけのことではないはずだ。
Platinum 300 3Gで「告白」を聴いて、Audio Necで聴けば、
やはりAudio Necのベル音にどきっとしたように思う。

Platinum 300 3Gは、家庭での良質の音という感じを受けていた。
どちらが優れているスピーカーシステムということではなく、
家庭で音楽を聴くということ、
そのことをあらためて考えさせられる対照的な鳴り方をしていた。

「五味オーディオ教室」で読んだことも思い出す。
     *
 音を聴き分けるのは、嗅覚や味覚と似ている。あのとき松茸はうまかった、あれが本当の松茸の味だ——当人がどれほど言っても第三者にはわからない。ではどんな味かと訊かれても、当人とて説明のしようはない。とにかくうまかった、としか言えまい。しかし、そのうまさは当人には肝に銘じてわかっていることで、そういううまさを作り出すのが腕のいい板前で、同じ鮮魚を扱ってもベテランと駆け出しの調理士では、まるで味が違う。板前は松茸には絶対に包丁を入れない。指で裂く。豆はトロ火で気長に煮る。これは知恵だ。魚の鮮度、火熱度を測定して味は作れるものではない。

オーディオ愛好家は、耳で考える
 ヨーロッパの(英国をふくめて)音響技術者は、こんなベテランの板前だろうと思う。腕のいい本当の板前は、料亭の宴会に出す料理と同じ材料を使っても、味を変える。家庭で一家団欒して食べる味に作るのである。それがプロだ。ぼくらが家でレコードを聴くのは、いわば家庭料理を味わうのである。アンプはマルチでなければならぬ、スピーカーは何ウェイで、コンクリート・ホーンに……なぞとしきりにおっしゃる某先生は、言うなら宴会料理を家庭で食えと言われるわけか。
 見事な宴席料理をこしらえる板前ほど、重ねて言うが、小人数の家庭では味をどう加減すべきかを知っている。プロ用高級機をやたらに家庭に持ち込む音キチは、私も含めて、宴会料理だけがうまいと思いたがる、しょせんは田舎者であると、ヨーロッパを旅行して、しみじみさとったことがあった。
     *
たしかに、この二つのスピーカーの音には、このことを思い出させる違いがあった。
どちらが優秀ということではなく、どちらが好ましいのか。
そういう聴き方もある。

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