情景(その3)
ハイ・リアリティな音ということは、
「五味オーディオ教室」を読んだ時から私の頭にずっとある。
ハイ・フィデリティよりもハイ・リアリティを、と思っていた時期もある。
では、ハイ・リアリティな音とは、どういう音なのか。
鮮度の高い音ならば、その結果として、ハイ・リアリティな音となるのか。
プログラムソースに含まれている音(信号)を、
できるかぎりそのままに増幅して、音に変化する。
そうすることで、究極の鮮度の高い音を実現したとしよう。
私には、それがハイ・リアリティな音とは、どうしても思えない。
鮮度の高い音──、
一時期の私にとって、これは魅力的な表現でもあった。
鮮度を損う要素を、オーディオの再生系から徹底して排除していく。
鮮度の高い音の実現とは、鮮度を損う要素を排除することでもある。
けれど、そういう音が、
別項「いま、空気が無形のピアノを……(その4)」で書いている音を聴かせてくれるのか。
そこで聴いた音は、いわゆる鮮度の高い音ではない。
けれど、サックスのソロになった瞬間に、
スピーカーに背を向けながら写真撮影の助手をやっていた私は、
サックス奏者が背後にいる、という気配を感じとってしまい、
そこに誰もいないのはわかっても振り返ってしまった。
これは確かにリアリティのある音だった。
生々しいサックスの音でもあった。