メーカーとしての旬(その8)
旬があったメーカーとそうでないメーカーとの違いは何だろうか、
とその理由を考えると、リーダーがいる・いないの違いもあるのではないだろうか。
別項でも引用しているが、ここでもう一度引用しておきたいのが、
スイングジャーナルの1980年3月号に掲載された、
「質の時代に入るか! オーディオ界」という菅野先生と瀬川先生の対談である。
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瀬川 また、話しは前後してしまいますが、こうした技術とセンスのバランスがあたり前のような世の中になっても、まだ聴いても測定しても相当おかしなスピーカーが新製品として平気で出てくること自体が分らない(笑)。
菅野 それは、何と言っても組織のもたらす影響が大きいんですよ。組織がなければ、現代企業の発展はないのだけれど、起業、組織といったものは必ずしもプラスばかりに働かない。特に、こうしたオーディオ機器と作るというものは、非常に組織化しにくいものなんですね。特に編集部なんぞは管理しきれない(笑)。
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瀬川先生が生きておられたら、
598スピーカーが新製品として平気で出てくること自体が分からない──、
そういわれたように思っている。
598スピーカーという消耗戦が続いたのは、
菅野先生がいわれるように組織がもたらす影響が大きいのであろう。
マネージャー(管理者)はいても、
リーダー(統率者、指揮者)はいなかったからなのだろう。
優秀なマネージャーがいるメーカーは、勢いのある時期を迎えることはできるだろうし、
その勢いをけっこうな期間維持もできるかもしれない。
でも、それは旬といえる期間ではない。
旬を迎えることのできるメーカーには、しっかりとしたリーダーがいるはずだ。
メーカーだけではない、
ステレオサウンドというオーディオ雑誌にも、旬といえる期間はあった。
けれど、それは編集部にリーダーがいたからとは思っていない。
その時のリーダーは、編集部にはいなかった。
別にいた。