メーカーとしての旬(その7)
食べ物ならば、旬の食材はひときわおいしくなる。
その観点からの598スピーカーの音は、どうだったろうか。
1980年代の598スピーカーは、ほとんど聴いている。
ステレオサウンドの試聴室で聴いている。
コスト度外視といえるほど、物量を投入したスピーカーばかりである。
けれど、そんなスピーカーから出てくる音をおいしく感じたのかといえば、
はっきりとノーである。
井上先生がきちんと鳴らされた598スピーカーの音は、
感心するような音を出してくれることもあった。
それでもアンプは、CDプレーヤーは、
価格的にアンバランスになってくるし、
使いこなしのテクニックは、多くの人が考えるよりもずっと要求される。
598スピーカーを買う人たちのほとんどが、そういう鳴らし方はできなかったはずだ。
しかも、それでもおいしいと感じる音ではなかった。
あくまでも感心する、といった程度だった。
だから、598スピーカーは、オンキヨーだけでなく、
どのメーカーであっても、旬とは到底いえなかった。
旬のものは売れる。
598スピーカーも売れた。
だから598スピーカーは旬であった──、
そういう会社・人も出てくるかもしれない。
そういう捉え方もしたとしても、
598スピーカーでおいしいと感じる音を出したモノがあったのか、と、
その人たちに問いたくなる。