S氏とタンノイと日本人(その6)
バッキンガム、ウインザーといっても、
タンノイにそんなスピーカー、あったっけ? という人は多いかもしれない。
私はすごく注目していたけれど、
だからといって音を聴いているわけではない。
実物をみたこともない。中古でもみたことはない。
バッキンガムは25cm口径の同軸型ユニットに、
30cm口径のウーファーを二発加えた、かなり大型の3ウェイモデルである。
最初、三つのユニットは縦一列に並んでいた。
その後、ウーファー二発が横に並べられたモデルも登場してきた。
縦型と横型のバッキンガムがあったわけだが、そのどちらもみたことはない。
バッキンガムのことは別項で以前ふれている。
ある意味ハーマン時代だからといえるところも見受けられる。
同軸型ユニットに、スラントプレートの音響レンズが設けられているところがそうだ。
それから、バッキンガムが登場した時点では、まだタンノイはアルニコ磁石が主流だった。
HPDシリーズが現行ユニットだった。
なのにバッキンガム、ウィンザーはフェライト磁石を採用しているだけでなく、
25cm口径の同軸型ユニットでは、フェライト磁石を低域・高域で独立している。
デュアルコンセントリックと呼ばれているタンノイの同軸型ユニットは、
アルテックの同軸型(デュプレックス)とは違い、磁石を一つにしていることのメリットを、
謳っていたにも、関らずである。
それは置くとして、バッキンガムは物量投入のスピーカーシステムだった。
たとえばLCネットワーク。
バッキンガムでは、大小七つの空芯コイルが使われている。
6mH、4mH(2つ)、2mH、0.8mH(2つ)、0.7mHという内訳だ。
バッキンガムの同軸型ユニットとウーファーのクロスオーバー周波数は350Hzだから、
コイルの値は大きなものとなる。
通常ならば鉄芯入りコイルである。
JBLの4343も鉄芯入りである。
それからエンクロージュア積層構造で、
それまでのタンノイのイメージからは想像できないほどにリジッドなつくりとなっている。
アーデンが43.0kgなのに対し、バッキンガムは95kgである。
4343が79kg、4350が110kgである。
アーデンとバッキンガムの外形寸法を比較してみると、
W66.0×H99.0×D37.0cm(アーデン)とW60.0×H117.5×D45.4cm(バッキンガム)。
このことからも、エンクロージュアのつくりが、アーデンとバッキンガムはそうとうに、
というよりも、根本的に設計思想が違っている。