リモート試聴の可能性(その4)
自分のシステムの音を録音する──、
かなり以前からやっている人はいた。
新潮文庫の「音楽巡礼」の解説は、南口重治氏である。
そこに、こんなことが出てくる。
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五味先生も多忙、私も仕事に忙殺されている時には録音テープが送られてくる。ヴェルディの「椿姫」、スタインバーク指揮ピッツバーグ響によるラフマニノフの第二シンフォニーであったりするのだが、それには必ず肉声の解説がつく。「ただ今のカートリッジはシュワーのV15でございます。今度はEMTのカートリッジに取り替えて録音します。……そちらの鳴り具合はいかがですか」といった調子だ。
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録音テープは、カセットテープではなくオープンリールテープだろう。
どんなマイクロフォンを使われていたのだろうか。
いまから四十年以上の前の話だ。
こういうところは、オーディオマニアは変っていないのかもしれない。
「音楽巡礼」を読んだ1981年、
18歳だった私は、五味先生もこんなことをやられるんだ、と思っていた。
けれど、いまになると、この録音テープは、かなり貴重である、と思っている。
この録音テープ、一本も残っていないのだろうか。
五味先生のシステムは、練馬区で保管され、試聴会が行われている。
私も一度行ったことはある。
その音を聴いているが、その音をもってして、五味先生の音とはまったく思っていない。
五味先生が鳴らされていたシステムが、いまも鳴っている。
その音を聴いただけ、という感想でしかない。
けれど、五味先生が南口氏に送られていた録音テープがまだ残っているのであれば、
五味先生が鳴らされていたシステムで、ぜひとも聴いてみたい。