シングルボイスコイル型フルレンジユニットのいまにおける魅力(次なるステップは・その6)
(その3)で書いたことと深く関係することを、書いておく。
熊本のオーディオ店で、瀬川先生がきかせてくれたKEFのModel 105でのバルバラの口の小ささは、
いまでもはっきりと思い出せるほどにリアルで見事だった。
けれどくり返すが、そこにバルバラの肉体を感じとることはできなかった。
このことと関係してくるのが、その口の位置である。
もちろん左右のスピーカーの中央に、ぴしっと定位している。
けれど、その口の位置がどうにも低いのだ。
バルバラの身長を知らない。
けれど、そこで歌っているバルバラの身長は、小学生くらいにしか思えなかった。
Model 105はフロアー型とはいえ、それほど大型でもないし、背の高いスピーカーでもない。
けれど、バルバラの口の位置の低さは、そういうことだけで決定されることではない。
たとえば、これがLS3/5Aを手を伸ばせば届くぐらいの位置において、
ひっそりと聴くのであれば、口が小さくて、その位置が低くてもまったく気にならない。
けれどModel 105クラスのスピーカーとなると、もうそういう聴き方をしなくなる。
そうなると口の位置の低さは、気になってくる。
ましてリアルにバルバラの口が再現されているだけに、
そして肉体を感じさせないだけに、よけいに不気味でもある。
理想は、Model 105並に口が小さくて、
しかもバルバラの肉体が感じられ、さらには口の位置が実際のバルバラと同じであること。
けれど、そう簡単に実現できるわけではなく、そこには優先順位がある。
私はまず肉体を感じたい、けれどその肉体のデッサンが狂っていては、絶対にイヤだ。
口はあるべき位置になければならない。
そのうえで口を小さくしていきたい──、
そういう優先順位をもっている。
口が大きくなるくらいならば、低音はいらない。
それも優先順位ゆえのこととわかっていても、
そういう口の小ささは、往々にして低い位置にありがちだ。