「複雑な幼稚性」が生む「物分りのいい人」(その48)
ステレオサウンド 57号の特集はプリメインアンプの総テストだった。
試聴だけでなく測定も行われていた。
このころスピーカーケーブルによる音質への影響を減らすために、
トリオはΣドライブ、オーレックスはクリーンドライブ、
といった技術をプリメインアンプに搭載していた。
スピーカーケーブルまでもアンプのNFBループに入れてしまう技術である。
測定は当然、ノーマル状態とそれぞれの機能をオンにした状態で行われている。
Σドライブは測定結果にその違いが出ていた。
つまり効果があった。
試聴記にも、その効果にについては書かれていた。
トリオのKA800の瀬川先生の試聴記の一部である。
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まずスピーカーコードを2本のまま(一般的な)接続では、これといった特徴のない、わりあい平凡な音がする。そこで4本の、トリオの名付けたシグマ接続にしてみる。と、一転して、目のさめるように鮮度が向上する。いわゆる解像力が良い、というのだろうか、とくにポップス系の録音の良いレコードをかけたときの、打音の衝撃的な切れこみ、パワー感の凄さにはびっくりさせられる。
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オーレックスのSB-Λ70はどうだったのか。
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クリーンドライブというキャッチフレーズ通り、たいへんきれいな音。トータルバランスはいくぶん細みで、ややウェットなタイプということができる。低域や高域を特に強調するというタイプではなく、その点いくぶん、中域の張った音と聴こえなくもないが、全帯域にわたって特に出しゃばったり引っこんだりというところはなく、バランスは整っている。
このアンプの特徴であるクリーンドライブには、ON-OFFスイッチがついているが、いろいろなレコードを通じて切替えてみても、私の耳には気のせいかという程度にしかわからなかった。
(中略)
オーレックス独特のクリーンドライブをキャッチフレーズにする、スピーカーのマイナス端子からアンプにフィードバック・コードをつなぐ、3本接続の特殊な使いこなしを要求するアンプだが、私のテストに関する限り、クリーンドライブ接続の効果はあまり認められず、このためにスピーカーコードを3本にする必要があるかどうか、むずかしいところ。
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SB-Λ70の上級機SB-Λ77はどうだったのか。
こちらもそっけない。
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クリーンドライブとそうでない時の音の差はきわめてわずか。この差のために1本のよけいな配線の必然性については、やや首をかしげたくなる。
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SB-Λ70、SB-Λ77のアンプとしての、音質を含めた性能をどう捕えるかは人によって違ってくるだろうが、
少なくとも売りのひとつであるクリーンドライブは、測定でも試聴でもあまり効果がないと57号は伝えていた。