Date: 7月 9th, 2018
Cate: 複雑な幼稚性
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「複雑な幼稚性」が生む「物分りのいい人」(その36)

編集部の新人が最初に担当するページは、巻末にあったBestBetsだった。
いまのステレオサウンドでは、SS Informationがそれにあたる。
イベント、キャンペーンや価格改定などを伝えるページである。

ペーペーの新人が特集に携わることは、すぐにはやってこない。
それでも、意外に早くその機会がやってきた。

63号のベストバイである。
そのころのベストバイは、筆者原稿と編集部原稿とがあった。

筆者原稿は、各機種のコメントの最後に括弧つきで名前がある。
それがないのは編集部原稿である。

ジュニアさんは、スピーカーシステムの編集部原稿を担当されていた。
その中のひとつ、ヴァイタヴォックスのCN191について、
「少年、書いてみな」といって私に振ってくれた。

18で入った私は少年と呼ばれていた。
ジュニアに少年、この編集部は学校か、と笑いながら、
そんな指摘をされたオーディオ評論家の方もいた。

文字数は少ない。
短いから楽なわけではない。
書けた。

原稿をジュニアさんにみてもらう。
ほとんど朱(アカ)は入らなかった。
そのまま載った。

編集部原稿だから、名前が載るわけではない。
特集のベストバイに登場する中のたった一機種。
それでも、ローコストの製品を振られたのではなく、
ヴァイタヴォックスのCN191を私に振ってくれたことが、ほんとうに嬉しかった。

そんなふうにして私の編集者としてのキャリアは始まった。
私は七年間いた。
ジュニアさんはもう少し短かったかもしれない。

けれどジュニアさんは、才能があった。
いまジュニアさんと肩を並べるだけの才能をもつ編集者は、
ステレオサウンドにはいない、と断言できるほどだ。

私だって、この歳になっても、かなわないところがあるな、と思う。

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