オーディオ入門・考(Dittonというスピーカー・その6)
「正しい」と「ほんとう」について考えていて、
ここに関係してくる瀬川先生の文章として思い浮かぶのは、
KEFのLS5/1Aについて書かれたものだ。
ステレオサウンド 29号「良い音とは、良いスピーカーとは?(6)」での文章だ。
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BBCモニターの音は違っていた。第一にいかにも自然で柔らかい。耳を刺激するような粗い音は少しも出さず、それでいてプログラムソースに激しい音が含まれていればそのまま激しくも鳴らせるし、擦る音は擦るように、叩く音は叩くように、あたりまえの話だが、つまり全く当り前にそのまま鳴る。すべての音がそれぞれ所を得たように見事にバランスして安定に収まり、抑制を利かせすぎているように思えるほどおとなしい音なのに全く自然に弾み、よく唱う。この音に身をまかせておけばもう安心だという気持にさせてしまう。寛ぐことのできる、あるいは疲れた心を癒してくれる音けなのである。陽の照った表側よりも、その裏の翳りを鳴らすことで音楽を形造ってゆくタイプの音である。この点が、アメリカのスピーカーには殆ど望めないイギリス独特の鳴り方ともいえる。
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《陽の照った表側よりも、その裏の翳りを鳴らすことで音楽を形造ってゆくタイプの音》、
こここそが、「正しい(正確)」と「ほんとう」の違いを的確に表現していることに気づく。
29号は1973年12月だし、
「続コンポーネントステレオのすすめ」は1979年。
瀬川先生に、そういう意図はなかったのかもしれないが、
私には、このふたつの文章がリンクしているように思える。
50を過ぎて、そのことに気づけた。