Date: 1月 3rd, 2018
Cate: 選択
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オーディオ機器を選ぶということ(購入後という視点・その8)

12月に書店に並ぶステレオサウンドの特集の一本は、ベストバイである。
古くから続いていてる定番の特集である。

ベストバイは、best buyである。
ベストバイの特集が始まったころは、
特集の巻頭でそれぞれのオーディオ評論家が、ベストバイについて書いていた。

ベストバイ、お買い得と訳すことはできる。
最近ではほとんどベストバイということそのものについて語られることはなくなったが、
ベストバイには、暗黙のうちにお買い得の意味が強くある。

ならばgood buy、better buyは、お買い得ではないのか。
そんな考えもないわけではない。

47号から、ステレオサウンドのベストバイには星がつくようになった。
三つ星、二つ星、一つ星である。
はっきりと書いてないが、三つ星がbest buyで、二つ星がbetter buy、一つ星がgood buy、
そう捉えることもできないわけではない。

むしろ、そう捉えた方が自然ではないか、というか、無理がないと思える。
best buyなのに、星の数に違いがあることがそもそもおかしい。
best buyならば、すなわち三つ星であるはずで、
二つ星はbetter buy、一つ星はgood buyである。

47号で、瀬川先生が書かれている。
     *
 この味に関してはここ一軒だけ、といえるほどのうまい店は、めったに他人に教えたくないし、まして〝うまいみせ案内〟などに載らないように祈る、というのが本ものの食いしん坊だそうだ。せっかく見つけた店を人に教えておおぜいが押しかけるようになればどうしても味が落ちるし、やがて店を改装したり拡張したり、さらに支店まで出すように大きくなるころには、昔日の味はどこかに失われてしまっている。うまい店をたまたまみつけて、しかもその味を大切に思ったなら、せいぜい潰れない程度の流行りかたをするよう、細心の注意で臨まなくてはならない……のだそうだ。
 それがたとえば、食べたいだけ食べても二千円でお釣りがくるほどのおでん屋であったにせよ、また逆に、二~三万円は覚悟しなくてはならないレストランであったにせよ、その店を出るたびに、心底、うまかった! と言えるようなものを食べさせてくれれば、支払った代価は忘れてあとにはうまいものを食べた満足感だけが残る……。
 ベストバイというのを例えてみれば、まあこのようになるのではないか。

 同じたとえでいえば、購入して鳴らしはじめて数ヵ月を経て、どうやら調子も出てきたし、入手したときの新鮮な感激もそろそろ薄れはじめてなお、毎日灯を入れるたびに、音を聴くたびに、ああ、良い音だ、良い買物をした、という満足感を与えてくれるほどのオーディオパーツこそ、真のベストバイというに値する。今回与えられたテーマのように、選出したパーツにA(☆☆☆)、B(☆☆)、C(☆)の三つのランクをつけよ、といわれたとき、右のようなパーツはまず文句なしにAをつけたくなる。そして私の選んだAランクはすべて、すでに自分で愛用しているかもしくは、設置のためのスペースその他の条件が整いさえすればいますぐにでも購入して身近に置きたいパーツ、に限られる。
     *
A(☆☆☆)、つまり三つ星こそがbest buyだということが伝わってくるし、
もっと大事なことは、購入してすぐに、ではなく、購入して数ヵ月後、
《入手したときの新鮮な感激もそろそろ薄れはじめてなお》と続いている。

つまり購入後、buy(買う)ではなく、bought(買った)である。

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