ケーブルはいつごろから、なぜ太くなっていったのか(その20)
Record’s Bible(1977年度版)で、
ケーブルにおける電流密度について考える上で興味深いことを井上先生が書かれている。
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スピーカーコードで音質が変化する好例としては、米ARのAR3−aシステムがある。このタイプは、出力音圧レベルが低く、アンプのパワーを要求する。まして、インピーダンスが約4Ωと低いため、普通の電源コードなどで結んで使うと、いわゆるモワッとしてスッキリしない音になりやすい。ところが、極めて太いコードを使い最短距離で結ぶと、見違えるほどクリアーになり広い部屋でパワーを入れて使うと、驚くほどクリアーで抜けがよく、スケールの大きな音を得ることができる。細いコードでは、せっかくのアンプのパワーがコードに食われてしまい、スピーカーに送り込まれず、スピーカーはDFの悪いアンプでドライブされていることになる。
スピーカーコードの問題は、損失とDFだけの問題ではなく、多くの要素が含まれいてるが、各メーカーからの専用コードを使用してみると、確かに音質の改善に効果があるのは事実である。
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DFとは、いうまでもなくダンピングファクターのことだ。
別項「muscle audio Boot Camp(その13)」でも書いているように実効ダンピングファクターで捉えると、
スピーカーケーブルの太さの違いによる直流抵抗値の違いは、
スピーカーユニットからすれば、それほどの差となってあらわれるわけではない。
もちろんスピーカーシステムからすれば、
スピーカーケーブルを含めたダンピングファクターは数値的には大きな違いとなるが、
私は実効ダンピングファクターで捉えるべきだ、と考える。
私はARのスピーカーを鳴らした経験がない。
ARのスピーカーシステムの音も、ほんのちょっと聴いたことがあるだけで、
井上先生が書かれているような音の変化を体験しているわけではない。
井上先生が書かれている《極めて太いコード》とは、どのくらいの太さなのだろうか。
1977年当時の一般的なケーブルよりも、かなり太いという意味であろう。
AR3aを細いケーブルと太いケーブルで鳴らす。
太いケーブルは最短距離で接続しているわけだから、短い。
細いケーブルは、一般的な長さ、というところか。
具体的な長さについては書かれていないが、
太いケーブルの長さは長くても1m程度だろう。
細いケーブルは3m以上、5m程度だろうか。
太いケーブルと細いケーブルでのAR3aの音の違いは、音量は同じに設定してのことのはず。
そう仮定して、井上先生の文章を電流密度という観点から読めば、
細いケーブルの場合は電流密度は高く、
太いケーブルの場合は電流密度は低い、ということになる。