Date: 12月 25th, 2017
Cate: 川崎和男
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KK適塾 2017(一回目・その2)

秋葉原のパーツ店は、店そのものは小さくとも、
在庫としてはかなりの数を抱えている。

閉店のウワサをいちはやくかぎつけた人たちは、
在庫をすべて買い取りたい、といってきたそうだ。
ただし、話にならないほどの価格だった、と聞いている。

人をバカにするにもほどがある、という。
そんな感じだったようだ。

安く買い叩いて、高く売る。それが目的の人たちなのだろうか。
いわゆる転売屋と呼ばれている人たちである。

ジャズ喫茶の閉店のウワサとともに、同じことをもちかけた人たちも、
ほんとうのところはどうなのだろうか。
転売屋の人たちがまったくいないわけではないだろう。

すべての人がそうだ、といわない。
通い詰めた場所がなくなるのだから、何か記念として……、という人もいるはずだ。

職業に貴賎はない、という。
そうだ、とはおもう。
五味先生がラヴェルのマ・メール・ロワを聴かれたときのことを書かれている。
     *
 これを初めてS氏邸で聴くまで、ラヴェルにこういう曲があることを私は知らなかった。聴いて陶然とはじめはした。二度目に聴かされたとき、街かどに佇む夜の娼婦をまざまざ私はこの曲趣に見たのを忘れない。寒い夜で、交番所があって、其処にはフランスのしゃれた巡査がマントを着て立っており、コツコツ靴を鳴らして時々付近を巡邏する。街灯が遠く、建物の角に斜めに立っている。人気のないショー・ウインドからむなしい明るさが路上にもれ、そんな窓のかどに淋しそうな娼婦が佇んでいるのだ。街を通る人影はほとんどない。でも彼女は立ちつづける。吐く息が寒気で白い湯気のように窓の照明に映る。巡査は彼女が娼婦なのを知っているが黙って交番所にもどってくる。寝しずまった都会の夜景。娼婦も、詩人も、単に生き方がちがうにすぎない。詩人がすぐれていて娼婦は賤しいとどうして言えようか? 彼女は必死で生きようとしている。暗くて貌はわからないが、きっと美人だ。いろいろなことが彼女の過去にあったろう。めったにもう人は通らない時刻なのを彼女は知っている。それでも佇んでいる。過去を背負って立ちつづけるのが神の意志にそうことを彼女は知っている。忘れたころに、自動車のヘッドライトが遠くの街路を音もなしに走り去ってゆく……ゆっくり、彼女はハイヒールを鳴らして巡査の方にやってくる。煙草を吸いたいからマッチを貸してちょうだい、と彼女は言う。若い巡査は黙ってズボンのポケットのマッチを出すが、自分では点けてやらない。彼女は暗がりにボウと一瞬、炎の明るさへ自分の顔を泛べて、擦る。痩せてはいるが果して美貌だ。烟りが、交番所の火にゆらゆらと立ち昇る……あなたも吸わないかと彼女はすすめるが彼は無言で頭をふる。彼女は靴音を残してまた元の場所へ歩み去る──
(《逝ける王女の為のパヴァーヌ》より)
     *
《娼婦も、詩人も、単に生き方がちがうにすぎない》
こういうのを10代のころに読んでいるからなのか、
《詩人がすぐれていて娼婦は賤しい》とは思わない。

この文章を読んでいても、私と違う人もいる。
知人は、賎しい職業だ、と思う人だ。
そういうひとが、小説を書いて芥川賞が欲しい、という。

そういう人を間近でみていたから、《詩人がすぐれていて娼婦は賤しい》とは思わないわけだが、
それでも転売屋と呼ばれてる人たちは、賎しいのではないか、とすらおもう。

職業に貴賎はないのだとしたら、
商売に貴賎はあるのかもしれない。

こんなことを書いているのは、
久坂部羊氏の話に、脳死と臓器移植のことがあったからだ。

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