「商品」としてのオーディオ評論・考(その7)
そういえばこんなことがあった。
ある国内メーカーがCDプレーヤーの新製品を出した。
けれど完成品(量産品)は、新製品の試聴には間に合わない。
だから試作品で試聴してほしい、という依頼が、広告代理店からあった。
広告代理店といっても、電通や博報堂といった大手のそれではなく、
オーディオだけの広告代理店が、当時はいくつかあった。
取材(試聴)で製品の貸し出しをお願いする際に、
メーカー、輸入元に直接電話することもあれば、
広告代理店を通じて、というのもあった。
国内メーカーのいくつかは広告代理店を通じて、だった。
そのメーカーの、20万円ほどのCDプレーヤーの新製品である。
ステレオサウンドは季刊だから、最新号の掲載を逃せば、
次は三ヵ月後になる。
それでは商戦に間に合わない。
だから試作品にも関わらず、新製品で取り上げてほしい、という強い押しだった。
試作品ということで、内部写真も撮らないでほしい、という制約が、
広告代理店からあった。
しかも1ページの扱いではなく、2ページでやってほしい、という。
かなりずうずうしい依頼である。
当時のステレオサウンドの新製品の紹介ページでは、
1ページの場合は、製品写真のみ、2ページは内部写真の他に、部分にスポットをあてたカットも入れていた。
そういう写真はやめてほしい、写真はこちらで用意する、という。
確かに写真は用意してくれたが、
ステレオサウンドの新製品紹介のページのフォーマットに使えないものばかりだった。
結局どうしたか、というと、内部写真をとって掲載した。
D/AコンバーターのLSIの近くには、ブチルゴムが貼ってあった。
ブチルゴムは、ここだけでなく、何個所に使われていた。
その部分もしっかり撮ってもらい、ブチルゴムが使われていることを説明文にも入れた。
量産機では絶対にしないことを、試作品ではやっていた。
だからこそ、誌面にはそのことをしっかりと掲載した。
本が出て、その広告代理店からクレームという名の文句が来た。
予想通りに文句をいってきた。