スピーカーは鳴らし手を挑発するのか(オリジナルとは・その3)
(その2)に書いたスピーカーの自作マニアの人について考える。
(その1)で書いたJBLのハーツフィールドの外観だけをコピーし、
中身は別モノをつくろうと考えていた知人と比較しながら考えてみる。
往年の名器と呼ばれるハーツフィールドやパラゴンをコピーし自作する人が昔はいた。
いまもインターネットで検索してみると、同じことをやっている人がいる。
昔はそういう人がオーディオ雑誌に取り上げられていた。
いまはそうではないから気がつかないだけなのかもしれない。
昔のオーディオ雑誌に登場していた自作マニアの人たちは、
パラゴンやハーツフィールドが欲しくて──、ということだけが自作の理由なのだろうか。
1970年代にはハーツフィールドはすでに製造中止になっていたが、
パラゴンは現役のスピーカーシステムだった。
1975年ごろ、パラゴンは1,690,000円だった。
パラゴンに搭載されていたユニット、
ウーファーのLE15Aは、67,200円(一本、以下ユニットの価格はすべて一本)。
ドライバーの375は125,900、ホーンH5038Pは当時単体ではカタログに載っていない。
トゥイーターの075は38,600円、ネットワークのLX5とN7000が、41,500円と16,500円。
ユニットの合計はホーンを抜きにして289,700円、これの二倍は579,400円になる。
ホーンを含めばユニットの合計は60万円をこえるとなると、
パラゴンのシステムとの差額は約100万円。
この100万円をできるだけ安く仕上げたいがための自作とは思えない。
パラゴンを自作するためには、まず図面の入手が必要である。
同じ図面を手に入れても、自作する人によって板取は違ってくる。
つまり材料の入手、板取、加工、仕上げなどをひとりで黙々とこなしていくことになる。
数時間程度で完成するものではない。
仕事が終り帰宅してから、もしくは休日に集中して作業しても、
完成までにはかなりの期間を要する。
アンプの自作とは違い、スピーカーの自作には、
特にパラゴンのような大型のシステムであれば作業スペースの確保もたいへんだ。
パラゴンの自作にともなうもろもろのことを金銭に換算したら、
100万円と同じくらいか、ときとしてそれをこえてしまうのではないだろうか。
思うに、あの時代、パラゴンやハーツフィールドを自作していた人たちは、
安く仕上げたい、手に入れたい、ということよりも、
むしろ挑戦という気持が強かったのではないか。
つまりパラゴン、ハーツフィールドに挑発されての挑戦である。