日本のオーディオ、これまで(ラックスCL32・その9)
ラックスの歴史は長い。
錦水堂ラジオ部として、ラックスは大正14年に発足している。
錦水堂ラジオ部とあるくらいだから、本家の錦水堂があり、
こちらは額縁屋である。
ラックスのアンプと木製ケースについて、何かを語ろうとするときに、
このことは忘れてはいけないように思っている。
少なくとも1970年代までのラックスのアンプは、
錦水堂が額縁屋だったことを感じさせてくれる。
それがいまはどうだろか。
まったく感じられなくなっている。
アンプだけではない。
アナログプレーヤーのPD121もそうだ。
額縁という観点から、もう一度PD121を見直していただきたい。
PD121のキャビネットを囲っているローズウッド。
実はプリント材である。
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例えばラックスの美しいプレイヤーユニットPD121、131の側面には、とても質の良い──北欧製の高
級家具ぐらいでしかお目にかかりにくいような──美事なローズウッドが張ってある……と思いきや、これが実はプリント材なのだ。ラックスの話によると、あの狭い面積であれだけ美しく見えるローズウッドは、もはや天然材の中からは探し出すの容易でない。一品もののような家具なら別だが、量産用としてほ、もう日本に輸入されるローズウッドからは、不可能に近い。そこで、できるだけ質の良いプリント板を探してみた結果、ああなったのだ、という。
木目の美しさを見せるなら、絶対に天然材を使うべきで、プリント板などというゴマ化しは絶対に認めたくない、という主義の菅野沖彦氏でさえ、これがプリントだとは見破れなかった。
ある日この話を彼にしたところ、うーん! とうなって、数十秒間絶句していたが、やがて口を開いてのひと言が、またいかにも菅野氏らしかった。
「うーん……信じていた女の過去を突然聞かされたみたいなショックだよ!」
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瀬川先生が、以前FM fan連載の「オーディオあとらんだむ」で書かれていた。
知った上で見ても、プリントとは見破り難い。
これは、やはり錦水堂本家が額縁屋だったからなのだろう。