世代とオーディオ(JBL SE408S・その15)
マークレビンソンのNo.29、チェロのEncore Powerが登場した時期は、
パワーアンプのハイスピード化が音質向上につながる、といったことがよくいわれていた。
電源の平滑コンデンサーは、だから大容量よりも小容量のほうが有利だし、
音のにじみをなくすために出力トランジスターの並列接続をやめ、シングルプッシュプルにする、
アンプのプリント基板もできるだけ小さくまとめる──、といったことがいわれていた。
JBLのSE408Sを、そういう視点で一度ながめてみてほしい。
まずシングルプッシュプルである。
しかも出力トランジスターのすぐ隣にドライバー段のトランジスターがあり、
この間は、これ以上縮めようがないほど近接している。
しかもアルミダイキャストフレームがヒートシンクを兼ねているため、
いわゆる音叉的な構造体が存在しない。
増幅部のプリント基板も無駄に大きくはない。
入力段のトランジスターから出力段のトランジスターの距離も短い。
とくにNFBをかけたアンプの場合、この距離(ループの大きさ)は重要な項目となる。
平滑コンデンサーの容量も4500μFを二本並列にしているから、9000μF。
大容量とはいえない(これは、時代的なものも関係してのことではあろうが)。
しかもSE408S(に限らず同時代のJBLのアンプ)には、保護回路がない。
出力が40W+40Wという小ささも関係してのことであるが、
保護回路がないのは、音質劣化の要素がひとつないということである。
それから外装パーツがないということは、この部分におけるループの問題も発生しない。
シャーシーでアンプ全体を囲ってしまうことは、シールドの面からはメリットもあるが、
その他のデメリットもある。
六面体の筐体の場合、それぞれの面が電気的に接続されていて、
ループに対する配慮がなされていないと、デメリットの発生が大きくなる。
あらゆるところで、時代はくり返す、といわれる。
オーディオに関しても、そうであることが実に多い。
ただ前の時代、さらにその前の時代について知らない人が少なくないために、
もしくは盛大に技術内容を謳っているか謳っていないかの違いによっても、
くり返しが、新しいこととして受けとめられることが多い。