「複雑な幼稚性」が生む「物分りのいい人」(その1)
書こう書こうと思いつつも、なぜかいまだ書いていないことがいくつかある。
どの項で書こうか決めかねているうちに忘れてしまって書きそびれるわけで、
そんなことのひとつに、
瀬川先生がヴァイタヴォックスCN191 Corner Hornについて書かれた文章がある。
ちょうど別項「ステレオサウンドについて」で、49号についてふれているところ。
瀬川先生の文章は49号に掲載されている。
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つい最近、おもしろい話を耳にした。ロンドン市内のある場所で、イギリスのオーディオ関係者が数人集まっている席上、ひとりの日本人がヴァイタヴォックスの名を口にしたところが、皆が首をかしげて、おい、そんなメーカーがあったか? と考え込んだ、というのである。しばらくして誰かが、そうだ、PA用のスピーカーを作っていた古い会社じゃなかったか? と言い出して、そうだそうだということになった──。どうも誇張されているような気がしてならないが、しかし興味深い話だ。
ヴァイタヴォックスの名は、そういう噂が流れるほど、こんにちのイギリスのオーディオマーケットでは馴染みが薄くなっているらしい。あるいはこんにちの日本で、YL音響の名を出しても、若いオーディオファンが首をかしげるのとそれは似た事情なのかもしれない。
ともかく、ヴァイタヴォックスのCN191〝コーナー・クリプシュホーン・システム〟の主な出荷先は、ほとんど日本に限られているらしい。それも、ここ数年来は、注文しても一年近く待たされる状態が続いているとのこと。生産量が極めて少ないにしても、日本でのこの隠れたしかし絶大な人気にくらべて、イギリス国内での、もしかしたら作り話かもしれないにしてもそういう噂を生むほどの状況と、これはスピーカーに限ったことではなく、こんにち数多く日本に入ってくる輸入パーツの中でも、非常に独特の例であるといえそうだ。
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これを読んで、どう思うか。
人によっては、CN191なんて古くさいスピーカーをありがたがるのは、
日本のオーディオマニアの一部、懐古趣味の人たちだけ、と、最初から決めてかかるだろう。
私は、この文章を読んだ時、少し誇らしい気持になった。
イギリスのオーディオ関係者が忘れかけているメーカーを、
そのスピーカーシステムを、日本のオーディオマニアと評論家は正しく評価している、と。
1978年、CN191の《主な出荷先は、ほとんど日本に限られているらしい》。
もうこれだけで日本でしか評価されないスピーカー(に限らないオーディオ機器)は、
時代遅れの産物(いまどきの表現でいえばガラパゴスオーディオ)と、
短絡思考の人は決めつける。
ヴァイタヴォックスだけではない、
そういう人たちは、タンノイやJBLといったブランドも、同じに捉えている。
もっといえばホーン型を、同じに捉えている。
アメリカの一部のオーディオ誌で高く評価されたオーディオ機器のみが、
真に優れたオーディオ機器であり、または最先端のオーディオ機器であるかのように思い込んでいる。
昔よりもいまのほうが、そういう人が増えてきたように感じる。
昔からある一定数いたのかもしれないが、目につかなかった。
当時はインターネットがなかったからだ。
いまは違う。
狭い価値観にとらわれてしまっている人が目につくようになってきた。
狭い価値観にとらわれていることは全面悪とは思わないが、
そういう人が狭い価値観の範囲から外れたところにあるモノを、
あしざまに批判する、それも匿名で汚い言葉で批判しているのを見ると、
この人たちをなんといったらいいのだろうか、と考える。
「複雑な幼稚性」はそうして思いついた。
インターネットは、そういう人がいることを気づかせてくれた。
それだけではない、とも思っている。
そういう人を生んでいるのも、またインターネットだ、とも。
インターネットの普及で、情報は驚くほど増えている。
玉石混淆であり、情報と情報擬きがあり、
とにかくなんらかの情報と呼ばれるものは簡単に大量に入手できる。
その結果、知力低下が著しくなったのではないか。
もちろんすべての人がそうなったというわけではない。
一部の人は、インターネットによって知力低下といえる状態になっている。
もっといえば知力喪失といえる人もいる。
こんなことを書くと、自称「物分りのいい人」は眉をしかめることだろう。
自称「物分りのいい人」、そういう「物分りのいい人」を目指している人が、
私は大嫌いである。
知力低下(知力喪失)の「物分りのいい人」が少しずつではあるが、
はっきりと増えてきている。
REPLY))
以前からたびたび拝読しています。「複雑な幼稚性」をさかのぼって読みながら、本当にその通りだと実感しました。
「その2」で語られている、憧れていたスピーカーを購入して、掲示板で叩かれてしまった知人の方のお話は、私自身も似たような経験があります。とても辛いことです。
私と同世代(20代)の中にも、また「音楽ジャーナリスト」として活動する人、さらにオーディオ評論家の中に「CDは嗜好品になった」と言う人がいる今、決してそうではない、と思いながら、音楽とオーディオの関係をいつも考えています。
このブログにある言葉の中からも、考えるきっかけを見つけているところです。
REPLY))
ステレオサウンドの取り扱い製品が偏っていることが問題なのでは?
広告と記事の関連についての反省が全くありませんね。