Date: 5月 15th, 2016
Cate: オーディオマニア
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オーディオは男の趣味であるからこそ(その1)

クレバーなオーディオマニアを自称する人は、
狭い部屋に大型スピーカーを押し込んで鳴らしている人を揶揄する、
プロフェッショナル用機器を家庭で使う人のことも揶揄する、
ホーンは拡声器でしかない、と揶揄する……、
もっと書いていけるけど、このへんにしておく。

こういうクレバーなオーディオマニアを自称する人からすれば、
たとえばアルテックのA7を六畳間で鳴らしている人は、どう映るであろうか。

ナロウレンジの劇場用スピーカーで、エンクロージュアの仕上げもホーンの仕上げも粗いところが残っている。
家庭で使うことなど全く考慮していないスピーカーであるけれど、
日本にはあえて、この劇場用スピーカーを家庭に持ち込んだ人は、けっこういる。

クレバーなオーディオマニアを自称する人は、そういう人のことを、
古い、の一言で切って捨てるであろう。

クレバーなオーディオマニアを自称する人は、A7を六畳間で鳴らしてみた経験を、
同じといえる経験を持っているのだろうか。

ある、と言える人でも、どこまで真剣に取り組んだのだろうか。

音楽出版からCDジャーナル別冊として1996年、「オーディオ名機読本」が出た。
この本の中に、アルテックのA7について書かれた文章がある。
篠田寛一氏が書かれている。
     *
 また、こんなこともあった。
 米国・アルテック本社の人間を連れて何人かのユーザーを訪問した時のことである。その中にA7を使っている学生さんがいた。木造アパートなのであまり大きな音は出せないが、卒業して故郷に持って帰るまでエージングも兼ねて聴いてるのだという。それでもA7ならではのエネルギー感は楽しめるという彼の部屋に入って驚いた。6畳ほどのスペースにレコードプレーヤーをはじめアンプ、それに机や本箱などがところ狭しと置いてある中にA7が鎮座しているのだ。立錐の余地もないとはこのこと。それにしても、一体どこで寝るのだろう。その答えは、天井とA7との間にある1m弱のスペースにあった。棚のように見える間隙を覆っていたカーテンを開けると、何とそこにベッドが置いてあるではないか。ちょうど、2段ベッドの下段にA7を置き、その上段で寝るというパターンである。ベッドに横になって聴いていると体じゅうに適度な振動が伝わってきてなかなか心地よいと笑いながら話してくれた。
 これにはアルテックの人間も唖然とした様子、最初のうちは声も出なかったようだ、業務用のA7を家庭で聴くことすら信じられないうえこの特異なリスニング環境だから声が出ないのも無理はないが、しばらくたってひと言「ファンタスティック」といっていた。もし、クレージーなんて言ったら叱りつけてよろうと思ったが、自社の製品をこれほどまでに熱烈に愛用してくれるユーザーに心から感激した様子だった。
     *
クレバーなオーディオマニアを自称する人は、この人のことをなんというであろうか。
こういう経験をしてきたのだろうか、同じような経験をしてきたのだろうか。

こういう経験をしてこなかったこと、
考えもしてこなかった自分のことを、どう思うのだろうか。

このA7のユーザーがいた、
この人だけではない、他にも同じ人たちがいた時代が、日本にはあった。
熱い時代があったのは、確かなことだ。

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