優れたコントロールアンプは優れたヘッドフォンアンプなのか(その1)
1978年にステレオサウンド別冊として出た「Hi-Fiヘッドフォンのすべて」。
ここでの試聴方法を、瀬川先生が書かれている。
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ヘッドフォンのテストというのは初体験であるだけに、テストの方法や使用機材をどうするか、最初のうちはかなり迷って、時間をかけてあれこれ試してみた。アンプその他の性能の限界でヘッドフォンそのものの能力を制限してはいけないと考えて、はじめはプリアンプにマーク・レヴィンソンのLNP2Lを、そしてパワーアンプには国産の100Wクラスでパネル面にヘッドフォン端子のついたのを用意してみたが、このパワーアンプのヘッドフォン端子というのがレヴェルを落しすぎで、もう少し音量を上げたいと思っても音がつぶれてしまう。そんなことから、改めて、ヘッドフォンの鳴らす音というもの、あるいはそのあり方について、メーカー側も相当に不勉強であることを思った。
結局のところ、なまじの〝高級〟アンプを使うよりも、ごく標準的なプリメインアンプがよさそうだということになり、数機種を比較試聴してみたところ、トリオのKA7300Dのヘッドフォン端子が、最も出力がとり出せて音質も良いことがわかった。ヘッドフォン端子での出力と音質というは、どうやらいま盲点といえそうだ。改めてそうした観点からアンプテストをしてみたいくらいの心境だ。
また、念のためスピーカー端子に直接フォーンジャックを接続して、ヘッドフォン端子からとスピーカー端子から直接との聴き比べもしてみた。ヘッドフォンによってかなり音質の差の出るものがあった。そのことは試聴記の中にふれてある。
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トリオのKA7300Dは78,000円のプリメインアンプ。
約40年前のこととはいえ、KA7300Dは高級機ではなく中級機にあたる。
フロントパネルにヘッドフォン端子がついていて、出力100Wクラスの国産パワーアンプとなると、
あれか、とすぐに特定の機種が浮ぶ。
このころのオーディオに関心のあった人ならば、すぐにどれなのかわかるはず。
コントロールアンプのLNP2(当時118万円)と比較すれば、安価なパワーアンプともいえるが、
KA7300Dよりは高価なモノだ。
そのパワーアンプの、スピーカーを鳴らしての評価は高いほうだった。
スピーカーを鳴らした音は聴いたことがある。けれどヘッドフォンを鳴らした音は聴いたことがない。
だから瀬川先生の文章を読んで、そうなのか……、と思った。
このメーカーはヘッドフォン端子をつけるにあたって、きちんと音を聴いていたのだろうか。
とりあえずつけておけばいいだろう、という安易な考えがあったのか、
それともこのメーカーが試聴用として使用したヘッドフォンならば、十分な音量を得られたのだろうか。
そうだとしても、特定のヘッドフォンにのみ、ということでは汎用アンプとしては、
むしろつけない選択もあったはずだ。
このパワーアンプでも、スピーカー端子にヘッドフォンを接げばいい音がした可能性は高い。
ヘッドフォンを鳴らすのにパワーはそれほど必要としない。
ごくわずかな出力ですむ。
ということは出力段がAB級動作であっても、
ヘッドフォンを鳴らす出力においては、ほぼすべてのアンプがA級動作をしているといってもいい。
それにアンプにとっての負荷としてみても、
ヘッドフォンとしては低い部類のインピーダンスであっても、
スピーカーとくらべれば高い値である。
つまりアンプにとってヘッドフォンを鳴らすのは、
スピーカーを鳴らすよりもずっと簡単なことだ、と思えなくもない。
でも実際のところはそうではない。