ワグナーとオーディオ(その3)
ワグナーの楽劇にかぎってレコード演出ということをおもうのは、
カルショウによるショルティの「ニーベルングの指環」があるからのようにも思う。
カルショウが行ったのは、レコード演出のひとつと呼べるものであった。
それは当時として効果的であり、
また「ニーベルングの指環」全曲を初めて、
しかも音だけのレコードで聴く者にとってはきわめて有効であっても、
レコードはくり返し聴くわけであり、
その後も新しい「ニーベルングの指環」が登場してくるようになると、
時代の変化とともに、行き過ぎた行為とも受けとれる。
カルショウが行った是非よりも、
なぜカルショウは、ここまでレコード演出と呼べる手法を行ったのか。
「ニーベルングの指環」はワグナーの作品であり、ワグナーはドイツ人であり、
「ニーベルングの指環」はドイツのオペラであり、イタリアのオペラではない。
ステレオサウンド 47号の音楽のページに「イタリア音楽の魅力」という記事がある。
黒田恭一、坂清也、河合秀朋(キングレコード第二制作室プロデューサー)三氏の座談会だ。
ここではイタリア・オペラだけでなくカンツォーネについても語られている。
この記事のころは高校生だった。
何の根拠もなしに、イタリアよりもドイツが、その音楽においても上位にあるように思い込んでいた。
そんな時に「イタリア音楽の魅力」が読めたのはよかった、といまも思っている。
モノクロ7ページで、ここで使われている写真はレコード会社から提供されたものであり、
お金も取材の時間もかかっていない記事である。地味な記事ともいっていい。
そういう記事だが、これを読んでいなければイタリアオペラだけでなく、
イタリア音楽の魅力に気づくのがどれだけ遅くなっていただろうか。