KK塾が終って……(その2)
インパクトのあるカウントダウンのあとに、講演が始まった。
オープニングのカウントダウンが、いまもはっきりと思い出せるのは、
続く講演の内容が素晴らしかったからである。
その講演の途中、スクリーンが白くなり、
Sad Macの表示が出た。
Sad Macといっても、Mac OS X以降のMacしか知らない人はわからないだろう。
Macは起動時にハードウェアのチェックを行う。
ここで異常があると、モトローラ時代のMacでは、イヤな感じのする音とともにSad Macが表示される。
正常であればHappy Mac(ニコニコMacともいっていた)が表示される。
これは川崎先生のジョークである。
Macを使っていた人ならば、動作中のMacでSad Macが出ることはない。
これが表示されるのは、あくまでも起動中においてのみである。
動作中に出てイヤな思いをするのは、いわゆる爆弾マークである。
この人はこういうこともする人なんだ。おちゃめなところもある人なんだ、と思っていた。
手塚治虫のマンガには、ヒョウタンツギやおむかえでゴンスといったキャラクターが、
唐突にコマに乱入する。
それに似た感覚からなのだろうか、とも思っていた。
草月ホールでの講演のころの私は、しんどい生活を送っていた。
草月ホールのロビーでは、川崎先生デザインのタイマー Canoが販売されていた。
たしか、Canoの購入は寄付行為でもあった、と記憶している。
手に入れたかったけれど、3000円ほどの出費がしんどくてあきらめて会場を後にした。
この時、草月ホールに集まっていた人たちは、違う世界の人たちのようにも感じた。
知っている人は、当然のことだけどひとりもいなかった。
場違いの人間が、ひとりぽつんと坐っている……、という感じもしていた。
そんなことがあった。
講演の内容は素晴らしかっただけに、
よけいに「この人に会える日が来るのだろうか」と途方に暮れていた。
ほんとうに、すごく遠い距離を感じていた。