簡潔だから完結するのか(その4)
高能率のスピーカー(たいては2ウェイでナロウレンジである)、
それを駆動するのは直熱三極管のシングルアンプ。
となるとコントロールアンプも真空管ということになる。
この組合せは、日本のオーディオにおいて、ひとつのあがりといえるものである。
私が10代だったころ、オーディオ雑誌に登場するマニアの中には、こういう人が多かった。
だからなんとなく、齢をかさねたら、私もこういうシステムに落着くのだろうか、とも思った。
私が10代のころ、オーディオ雑誌で見た、そういうマニアの中でもっとも印象に残っているのは、
ステレオサウンド 54号のスーパーマニアに登場された長谷川氏だった。
シーメンスのオイロダインに、伊藤先生のアンプ(もちろん300Bシングル)とEMTの927Dst。
まさしく「あがり」だと思った。
いやいや「あがり」ならば、スピーカーは励磁型だろう、という人がいる。
パーマネント型のスピーカーなど……、という。
励磁型の凄さは、多少なりとも私だって知っている。
だがここでの「あがり」のスタイルとして励磁型はない、と私は思う。
たしかにオイロダインは2m×2m四方の平面バッフルに取りつけられている。
これだけのスピーカーをいれるには、それだけの空間の部屋が必要であり、
誰もが同じことをできるわけではない。
けれど、これは大がかりなシステムとは思えない。
927Dstは大きい。オイロダインに匹敵するほどの風格をもっているアナログプレーヤーである。
それでも複雑な仕組みをもつモノではない。
オイロダインも往年のドイツ製といえるつくりをしているけれど、
コーン型ウーファーとホーン型トゥイーターの2ウェイという、いわば基本型といえるモノ。
伊藤先生のアンプにも、奇を衒ったところはまったく存在しない。
これらの組合せ(システム)を、若いころはシンプルだと捉えていた。
だが、ステレオサウンド 54号の長谷川氏のシステムは簡潔なのだ。