モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その8)
エスプリ(ソニー)のAPM6が登場したころの私には、
このスピーカーシステムを、聴感上のS/N比に注目して捉えることはまだできなかった。
だから、気がつかなかったことがいくつもある。
聴感上のS/N比という視点でAPM6をじっくりみていくと、
日本のスピーカーシステムで、
いくつかの共通点を見出せるスピーカーシステムが存在していたことにも気づくことになる。
ダイヤトーンの2S305である。
NHKの放送技術研究所と三菱電機とが共同開発した、このスピーカーシステムは、
はっきりとモニタースピーカーである。
なぜAPM8にはMonitorの文字がつかず、APM6にはついているのか。
そのことを考えても、ダイヤトーンの2S305の存在が浮んでくる。
APM6の設計者の前田敬二郎氏は、
APM6の開発において2S305の存在を意識されていたのだろうか。
勝手な推測にすぎないけれど、まったく意識していなかった、ということはなかったように思える。
2S305の開発において、聴感上のS/N比が開発テーマになっていたとは思えない。
NHKがモニタースピーカーに求める性能を実現した結果として、
2S305は、あの当時として、かなり優秀な聴感上のS/N比の高さを実現したのではなかろうか。
おそらく、いまでも現代の優秀なパワーアンプで鳴らせば、
2S305は多少ナロウレンジでありながらも、
聴感上のS/N比のよい音とは、こういう音だという見本という手本のような音を聴かせてくれるはずだ。
2S305は、日本を代表するスピーカー(音)といわれていた。
それは海外製のスピーカーシステムとくらべると、パッシヴな性格のスピーカーシステムであり音である。
そのため聴き手(使い手、鳴らし手)がより積極的に能動的でなければ、
海外製のアクティヴな性格のスピーカーシステム(音)を聴いた後では、
ものたりなさを感じてしまうような音でもある。
APM6の音を、私は聴くことがなかった。
どんな音なのかは、だから正確にはわからない。
それでも2S305に通じる、パッシヴな性格をもったスピーカーシステムであるはずだ。
APM6を、いまじっくりとみつめていると、
1976年当時のオーレックスの広告にあったコピーが思い出される。
「趣味も洗練されてくると大がかりを嫌います。」
「趣味も洗練されてくると万人向けを嫌います。」
APM6の広告にもそのまま使えるのではないだろうか。