オーディオ入門・考(その10)
ステレオサウンド 56号の特集で、瀬川先生が書かれていたことを思い出す。
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いまもしも、ふつうに音楽が好きで、レコードが好きで、好きなレコードが、程々の良い音で鳴ってくれればいい。というのであれば、ちょっと注意深くパーツを選び、組合わせれば、せいぜい二~三十万円で、十二分に美しい音が聴ける。最新の録音のレコードから、旧い名盤レコードまでを、歪の少ない澄んだ音質で満喫できる。たとえば、プレーヤーにパイオニアPL30L、カートリッジは(一例として)デンオンDL103D、アンプはサンスイAU-D607(Fのほうではない)、スピーカーはKEF303。これで、定価で計算しても288600円。この組合せで、きちんとセッティング・調整してごらんなさい。最近のオーディオ製品が、手頃な価格でいかに本格的な音を鳴らすかがわかる。
なまじ中途半端に投資するよりも、こういうシンプルな組合せのほうが、よっぽど、音楽の本質をとらえた本筋の音がする。こういう装置で、レコードを聴き、心から満足感を味わうことのできる人は、何と幸福な人だろう。私自身が、ときたま、こういう簡素な装置で音楽を聴いて、何となくホッとすることがある。ただ、こういう音にいつまでも安住することができないというのが、私の悲しいところだ。この音で毎日心安らかにレコードを聴き続けるのは、ほんの少しものたりない。もう少し、音のひろがりや、オーケストラのスケール感が欲しい。あとほんの少し、キメ細かい音が聴こえて欲しい。それに、ピアノや打楽器の音に、もうちょっと鋭い切れ味があったらなおいいのに……。
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KEFのModel 303に、サンスイのAU-D607、
パイオニアのアナログプレーヤーにデンオンのカートリッジ。
56号は1980年の秋に出ている。
これを読んで、いい組合せだな、と思い、
これらの製品がもう少し早く市場に登場していれば、このままの通りのシステムにしただろうな……、と思っていた。
《音楽の本質をとらえた本筋の音》、
いいなぁ、と心底思ったことを、いまも憶えている。
このシステムならば、故障しない限りずいぶんと長く使い続けられただろう。
これにチューナーを買い足し、カセットデッキも揃える。
この組合せの二年後にはCDプレーヤーが登場した。
すぐさま、このシステムにぴったりくるようなCDプレーヤーはなかったけれど、
さらに二年ほど待てば、手頃なCDプレーヤーもあらわれてきた。
なまじグレードアップをはかるよりも、この組合せのまま聴き続けたほうがいいようにも思うし、
それが幸せな、家庭での音楽鑑賞だろう、とも思う。
この組合せは、音楽を聴くのは好きだけれども、
オーディオには凝りたくないという人に、まさにぴったりである。
ならば、この組合せは、オーディオの入門用として最適の組合せともいえるだろうか。