価値か意味か(その1)
とかく趣味の世界には、実際に使ったことがなくても、本やカタログなどを詳細に調べ、同好の士と夜を徹して語り明かし、ユーザー以上に製品のことを熟知しているという趣味人も多い。それはそれでよいのだろうが、オーディオ、カメラ、時計など、物を通じて楽しむ趣味の場合には、対象となる製品は基本的に人間が人間のために作った優れた工業製品であるべきだと考えるため、最初に巡り合った製品が、そのメーカーやブランドの価値を決定することになるようだ。
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井上先生がこう書かれたのは、ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」、
ソニーについての文章においてである。
これはつくづくそう思う。
自分自身のことだけにとどまらす、
オーディオ好きの人と話していると、同世代であっても、
あるブランドに対する印象がずいぶん違うな、ということは、少なからず体験している。
それでもう少しつっこんで話していくと、最初に巡り合った製品が、
たとえ同じ世代であっても違っていた。
カメラや時計であれば、
そのブランドの製品はカメラや時計であるが、
オーディオメーカー(ブランド)の場合、
アナログプレーヤーであったり、プリメインアンプもしくはセパレートアンプ、
それにスピーカーシステム(スピーカーユニットの場合もある)、
テープデッキだってあるわけで、
そのジャンルのどの機種という違いがある。
私があるブランドと巡り合った最初の製品がプリメインアンプだとしても、
ある人はカセットデッキ、また別の人はスピーカーユニットだという場合もある。
こうなってくると、
「最初に巡り合った製品」が決定する
「そのメーカーやブランドの価値」は時に大きく違ってきても不思議ではない。
まして世代がずいぶん違う人だと、もっと大きく違ってくることもあるし、
偶然にも、世代の違いをこえて同じ製品が「最初に巡り合った製品」なこともある。