ヘッドフォン考(バイノーラルはどうなるのか)
瀬川先生はステレオサウンド別冊「Hi-Fiヘッドフォンのすべて」で、
テスト方法として、次のことを書かれている。
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プレーヤーやレコードは、日頃テスト用に使い馴れたものをそのまま使った。私の場合、ヘッドフォンの用途はすでに書いたようにごく普通のレコードの鑑賞用であるのだから、バイノーラルディスクを使うことはしなかった。もともとスピーカーで聴くことを前提に録音されたレコードをヘッドフォンで聴くのだから、音像定位や音場感には無理のあることは当然なのだが、だからといってヘッドフォンでレコードを聴くことをやめるわけにはゆかないのだから、そういう無理を承知の上で、どこまで満足のゆく再生ができるのか、を知りたかったわけだ。
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いまヘッドフォン、イヤフォンがこれだけ普及しているけれど、
そこで聴かれているのは、「スピーカーで聴くことを前提に録音された」ものである。
バイノーラル録音のものを聴いている人は、ごくわずかであろう。
私が知る(聴いた)バイノーラル録音で新しいのは、
グレン・グールドの1955年のゴールドベルグ変奏曲を、ヤマハの自動演奏ピアノを使って録音したSACDだ。
このディスクには通常のステレオフォニックの録音とはバイノーラル録音のふたつが収録されている。
2007年に出ている。
その後にバイノーラル録音はディスクはあるのだろうか。
ハイサンプリング、ハイビット(いわゆるハイレゾ)は、
ヘッドフォン、イヤフォンでも、対応を謳うモノが多くなってきているし、話題になっている。
けれどバイノーラル録音・再生のことは、まったく話題になっていないようだ。
ヘッドフォンでステレオフォニックの録音を聴くのが間違っているわけではないが、
一度はバイノーラル録音されたものをヘッドフォンで聴いてみてほしい、とも思う。
これからはパッケージメディアと並行してインターネット配信も進んでいく。
ならばグールドの自動演奏ピアノの録音と同じように、
同時にステレオフォニックとバイノーラルの、ふたつの録音を行い、
インターネット配信でバイノーラル録音を販売する、というやり方もあっていいのではないか。