世代とオーディオ(その10)
五味先生はFM放送の録音・再生以外の、どんなオープンリールデッキの使い方をされていたのか。
生録をやられていたとはきいていない。
五味先生はスチューダーのC37を買われるほど、
オープンリールデッキに対して熱心だった。
アナログプレーヤーでいえばC37はEMTの927Dstのような存在である。
五味先生は930stを愛用されていた。
927Dstがあるのもご存知だった。
その音は少なくともステレオサウンド 51号でのオーディオ巡礼で聴かれている。
それでもアナログプレーヤーを927Dstにされることはなかった。
けれどC37にはされている。
927Dstは大きすぎるから、は理由にはならない。
C37を買われているのだから。
五味先生が亡くなられてから一年以上が経ったころ、新潮文庫から「音楽巡礼」が出た。
あとがきに南口重治氏の文章がある。
その冒頭にこう書かれている。
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五味康祐先生が亡くなられてはや一年余月日の過ぎるのは早いものだ。私と五味先生とのおつきあいは大半がオーディオを通してであった。この稿を書くに当たって、五味先生から送られてきた何本かのテープを聴いてみた。存命中はご自慢の器械で名曲のさわりの部分をいつも送って下さったのだが、テープのはじめには必ず「ナンコーさん」と、あの優しい声の呼びかけが入っているのである。その声を聞き、ケンプの演奏するベートーヴェンのピアノソナタ作品109番の第一楽章を聴いていると「どうですか、音の具合は……」といまにも姿を現されそうな気がした。お互いに、もっとオーディオ自慢をしたかったのにと思うと残念でならない。
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こういう使い方もされていたのか、と読んで思っていた。
オープンリールとはどこにも書いてないが、カセットテープではまずないはず。
音キチを自称されていた五味先生のことだから、19cmということはないだろう、
2トラック38cmで録音されたテープを南口氏に送られていたのだろうか。