ポジティヴな前景とネガティヴな後景の狭間で(その3)
過去を振り返るな、前(未来)だけを見ろ!──、
こんなことを声高に、自分にいいきかせたり誰かにいったりしている人は、
グレン・グールドのいっているポジティヴな前景とネガティヴな後景を、
まったくそのとおりだ、と受けとめることだろう。
未来こそポジティヴであり、目の前に開けている、つまりは前景であり、
過去はどんなに後悔して変えたくても変えられないものだし、すでに通ってきたものだから、
そこにこだわるのはネガティヴなことであり、後景である、と。
だがグールドの、ポジティヴな前景とネガティヴな後景は、そんなことではない。
グールドは、ポジティヴとネガティヴについて、次のように語っている。
*
われわれが自分の思考を組織化するのに用い、そうした思考を後の世代に渡すのに用いるさまざまなシステムは、行為──ポジティヴで、確信があって、自己を頼む行動──といういわば前景と考えられるものだということ。そしてその前景は、いまだ組織化されていない、人間の可能性という広大なきわまりない後景の存在に信頼を置くよう努めない限り、価値をもちえない、ということです。
*
つまりグールドはここでは、ネガティヴを、組織化されていない、人間の可能性という意味で使っている。
グールドのいう、ネガティヴとは、これだけの意味ではない。
グールドは、事実の見方の助言として、こうも言っている。
*
諸君がすでに学ばれたことやこれから学ばれることのあらゆる要素は、ネガティヴの存在、ありはしないもの、ありはしないように見えるものと関わり合っているから存在可能なのであり、諸君はそのことを意識しつづけなければならないのです。人間についてもっとも感動的なこと、おそらくそれだけが人間の愚かさや野蛮さを免罪するものなですが、それは存在しないものという概念を発明したことです。
*
グールドのいうポジティヴな前景とは、つまりは存在しているものである。