素朴な音、素朴な組合せ(その12)
ごまかしがない音、というのは、表現を変えれば、装飾のない(もしくは少ない)音かもしれない。
ごまかしたいところをなんとか飾り立てて誤魔化す、
またはごまかしている箇所から注意をそらすために別のところを過剰に装飾してそちらに向くようにする──、
そういうことをやっていないという意味で、そう言えるような気もする。
そんなことを考えていたら、たとえば録音における「素朴」とはなにか、と思った。
録音の技術・手法はほんとうに大きく変化している。
そんな変化のなかのひとつにマイクロフォンの数が一時期急激に増えたことがある。
マルチマイクロフォンの行き過ぎたもの、それと正反対にいたのがワンポイントマイクロフォンによる収録。
このワンポイント収録は、録音側における素朴な手法なのだろうか。
今夏、アンドレ・シャルラン録音が、ひさしぶりにCDとして登場した。
マニアの間では、シャルラン録音のマスターテープはすべて焼却されてしまったから、
CD復刻はサブマスターやLPを使ってのものだから、価値はほとんどなし、という声もあるけれど、
実際にCDを聴いてみると、噎せ返るくらい濃く分厚い響きが聴こえてきた。
シャルラン・レーベルのLPを聴いたことはない。
だからオリジナルLP(オープンリールでも発売されていた)の良さが、
どのていど今回のCDに生きているのかは判断できないものの、
少なくともシャルラン録音の特徴は、色濃く伝わってくる。
ワンポイント録音といっても、1980年代に話題になったデンオン・レーベルのそれとはずいぶん違うことに、
最初の音(というよりも響き)がスピーカーから聴こえてきたときに、正直一瞬とまどってしまった。