Date: 12月 9th, 2014
Cate: 無形の空気
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いま、空気が無形のピアノを……(その3)

どれほどつきあいがながくても、その人が出している音に対して、
ほんとうに感じたことを話してはいけない、という体験を私もしている。

彼とは20年以上のつきあいだった。
彼の音はことあるごとに聴いている。
彼がどういう音を好むのかも知っている。

ある時、自信たっぷりに聴いてほしい、と連絡があった。
だが、そこで鳴っていた音は、彼自身の好みを知っている私が聴いても、間違っている音であった。

いくつかのディスクを聴いた。
彼が自信たっぷりに鳴らすディスクも聴いた。
持参したディスクも聴いた。

あきらかに間違っている音だった。
とはいえ、さすがに「間違っている音ですよ」とはいわなかった。
彼は遠慮なく言ってくれ、という。

だからそうとうオブラートに包んだつもりで、「ちょっとおかしい」と答えた。
これが彼のプライドをそうとうに傷つけたようで、
彼は後日、自身のブログで、私のことを書いていた。

どんなことを書いていたのかは、ここではどうでもいい。
ただ、どんなにつきあいが長かろうと、かなり遠慮気味に言ったとしても、
ネガティヴな表現を使ってしまうと、相手を傷つけてしまう。

そんなことはわかりきったことだろう──、
たしかにそうなのだが、彼は悪いところはそういってくれ、と日頃から私にいっていた。
そういう人でも、そうではなかった、というだけの話である。

そういうこともあって、聴かせていただいても、音の形については、聴かせてくれた人に言ったことはなかった。

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