plus(その12)
分割でプラスされてきたもののなかで、もっとも象徴的ともいえるのが、
ステレオ化といえるのではないだろうか。
モノーラルからステレオへは、それまで1チャンネルしかなかった伝送系に、
もう1チャンネルをプラスして2チャンネルとしたものだから、
その考えでいえばあくまでもプラスであり、分割でプラスされたものとはいえない。
けれどそういえるのか、とも考えられる。
モノーラルでスピーカーが一本しかないときには、すべての音源はスピーカーの位置にあった。
ステレオになりスピーカーが左右に設置されることで、音は左右に拡がっていった。
ここで考えたいのは、センター定位の音について、である。
歌のレコードだと、ほとんどセンターに歌手が定位しているように聴こえる。
けれど2チャンネルのステレオ再生には、スピーカーはあくまでも左右の二本であり、
センターにはスピーカーは存在しない。
モノーラルでの歌は一本のスピーカーからのみ、である。
それがステレオでは二本のスピーカーから、ということになる。
つまりこれはセンター定位する音を、左右のチャンネルに分割しているわけで、
左右のスピーカーから同じ音を出すことによって、
われわれ聴き手はあたかもセンターに歌手がいるように錯覚できる。
なにもセンター定位の音だけではない。
たとえば左側に定位する音に関しても、左側のスピーカーからしか音が出ていないわけではない。
右側のスピーカーからも左側に定位する音の一部は出ていたりする。
センター定位の音では左右に等しく分割していたのが、
片側のチャンネルに寄って定位する音の場合は、分割が等しいわけではない。
こんなふうに考えていくと、ステレオも分割というプラスという見方が可能になる。