オーディオ評論家の「役割」、そして「役目」(300Bのこと・その1)
300Bとは、ウェスターン・エレクトリックの直熱三極管のことであり、
真空管にほとんど関心のない人でも、一度は、この型番を耳にしたことがあることだろう。
もっとも有名な(少なくとも日本では)真空管である。
300Bはずっと以前は幻の真空管だった、ときいている。
存在は知られていても、実際に手に入れるにはかなりの苦労があった、らしい。
ステレオサウンド 8号の新製品紹介のページ「話題の新製品を診断する」の扉に、
瀬川冬樹の文字がある。珍しいことである。
瀬川先生が、このころのステレオサウンドの新製品紹介のページに登場されたのは、
これぐらいではなかろうか。
ここで瀬川先生が担当されているのは、ステレオギャラリーQのパワーアンプである。
ステレオギャラリーQの名を見て、すぐに300Bのシングルアンプを思い浮べられる人は、
いまでは少なくなったのかもしれないが、
1968年当時、ウェスターン・エレクトリックの300Bを採用したアンプとして話題になっていて、
そのことは、その約10年後にオーディオに入ってきた私でも、割と早く知っていたぐらいである。
そこに瀬川先生はこう書かれている。
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かつて八方手を尽してやっとの思いで三本の300Bを手に入れて、ときたまとり出しては撫で廻していた小生如きマニアにとって、これは甚だショックであった。WE300Bがそんなにたくさん、この国にあったという事実が頭に来るし、それを使ったアンプがどしどし組み立てられて日本中にバラ撒かれるというのは(限定予約とはいうものの)マニアの心理として面白くない。そんなわけで、試聴と紹介を依頼されて我家に運ばれてきたアンプを目の前にしても、内心は少なからず不機嫌だった。ひとがせっかく大切に温めて、同じマニアの朝倉昭氏などと300Bの話が出るたびに、そのうちひとつパートリッジに出力トランスを特注しようや、などと気焔をあげながら夢をふくらませていたのに、俺よりも先に、しかもこう簡単に作られちゃたまらねェ! という心境である。
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ウェスターン・エレクトリックの300Bとは、こういう真空管である。
(だった、と過去形では書かない)