オーディオ評論家の「役割」、そして「役目」(300Bのこと・その2)
ハタチぐらいのとき、伊藤先生に初めてお会いした時に、
ウェスターン・エレクトリックの349Aのプッシュプルアンプを作ろう、と思っていることを、
私が直接話す前に、サウンドボーイの編集長であり伊藤先生の一番弟子のOさんが先に話されていて、
「349Aでアンプを作るんだって」と伊藤先生から切り出された。
返事をすると、「349Aはいい球だよ」と言われ、続けてこういわれた。
「最初から300Bでアンプを作る人が増えているけども、そうじゃなくて、
段階を経て300Bにたどりついた方が、300Bの良さがわかるよ」
そういうことだった。
私がハタチというのは、いまから30年ほど前のこと。
あの頃よりも、ずっと今の方が300Bで最初のアンプを作るという人は増えているかもしれない。
作るまではいかなくとも、最初に手に入れた真空管アンプが300Bを使っている、という人もいても不思議ではない。
それはそれでいいのかもしれないが、
やはり私はいきなり300Bというのは、すすめない。
最初は手頃な真空管から始めて、次に一歩先に進んで、また別の真空管。
こんなことを何度かやって、あれこれ苦労した上で300Bにたどりつく。
それまで300B以外の真空管で、どう苦労しても得られなかった音が、あっさりと出てきてしまう。
300Bを完璧な真空管とまではいわないけれど、圧倒的に優れた真空管とはいおう。
ならば最初から300Bでもいいじゃないか、
他の真空管を使ってアンプを作るなんて、手間も時間もお金ももったいない。
十分な予算があるから、そんな貧乏臭いことはしたくない。
そんな考えをする人は、
オーディオに関しても同じことをやっているんだろう。
ラジオからラジカセ、
それから一応コンポーネント呼べるオーディオを手に入れて、
カートリッジをグレードアップして、アンプを次に、そしてスピーカーをやはりグレードアップする。
一通りすべての機器をグレードアップしたら、
またどこかをグレードアップしていく……。
そういう過程を踏んできているのがオーディオマニアであり、
お金があるから最初から最高のシステムを、と販売店に行く人がいるけれど、
そういう人はオーディオマニアとは呼べない。