マルチアンプのすすめ(その2)
ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES-1「マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ」で、
瀬川先生はあえて次のようなことを書かれている。
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ただお断りしておくが、何が何でもマルチアンプ化することをわたくしはおすすめしない。少なくとも、ふつうのLCネットワークによるシステムに音質の上ではっきりした不満または限界を感じるほどの高度な要求をするマニア、そして、後述のようなたいへんな手間とそのための時間や費用を惜しまないようなマニア、そしてまた、長期的な見通しに立って自分の再生装置の周到なグレイドアップの計画を立てているようなマニア……そう、この「マニア」ということばにあらわされるような、相当にクレイジイな、そしてそのことに喜びを感じる救いようのない、しかし幸せなマニアたちにしか、わたくしはこのシステムをおすすめしたくない。むしろこの小稿で、わたくしはアジテイターを務めるでなく、マルチアンプ化に水をさし、ブレーキをかける役割を引きうけたいとさえ、思っているほどだ。
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「マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ」は文字通りマルチアンプシステムを推奨する本であるにもかかわらず、
瀬川先生は、書かれたわけである。
引用した瀬川先生の文章は、「バイアンプシステムの流れをたどってみると……」の章の締くくりである。
マルチアンプシステムはオーディオマニアのための手段である。
それも「相当にクレイジイな」マニアのためのもので本来あったにも関わらず、
日本のオーディオブームは、マルチアンプシステムまでも流行のひとつにしてしまっている。
私はこの時期のオーディオを体験しているわけではないから、
また瀬川先生の文章を引用しておく。
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ところがこの時期になると、日本のオーディオメーカーが、過当競争のあまり、小型のブックシェルフスピーカーにマルチアンプ化用の端子を出すのはまだよいとしても当時の三点セパレートステレオ、こんにちでいえばシスコンのように一般家庭用の再生機までを、競ってマルチアンプ化するという気違いじみた方向に走りはじめる。そういう過熱状態が異常であることは目にみえていて、まもなく4チャンネルステレオの登場とともに望ましくないマルチブームは終りを告げた。前述したようにこの時期には、日本以外の国では、マルチアンプシステムは(時流に流されないごく一部の愛好家を除いては)殆ど話題にされていなかった。騒いだのは日本のマーケットだけだった。
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「望ましくないマルチブーム」が1970年ごろの日本のオーディオマーケットにはあった。