型番について(その25)
ステレオサウンド 80号での「フィガロの結婚」の試聴でのESL63Proのセッティングは、
通常の試聴におけるセッティングとは異り、フィリップスの録音チームがやっているのと同じようにしている。
ESL63Proの中心が聴き手の耳の高さと合せるためにまず通常よりも高いスタンドを用意し、
さらにここがもっとも特徴的なのだが、スピーカーを110度ほどに、思いっきり振っている。
実際の配置の詳細は80号の476ページに写真と図が掲載されているので、そちらを参照してほしい。
こういうセッティングとすることで、低音の音圧感は減るものの、
このセッティングならではの音場感が浮び上ってくる。
黒田先生はこう語られている。
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よく音がこちらにくるという表現を使いますが、このスピーカーの配置で聴くと、音は、絶対にこちらにきません。幹スピーカーの右端と左スピーカーの左端の線のむこう側に音場があって、むこう側で終わっている感じがするから、いちいち首をつっこんで、あすこにおまえがいるというふうに聴いてしまう聴こえかたなんですね。音を大きくすると、それがあまってくる。この中で形成する音量で、音場があったところを確かめるという聴こえかたですね。今度はオペラではなくて、楽器は動いたりしないから、よけいにそれが鮮明にでた。
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この発言で「オペラではなくて」は、「フィガロの結婚」を聴いた後で、
同じフィリップス録音の、ハイティンク指揮アルプス交響曲を聴いてのものであるからだ。
この時の試聴は、個人的に興味深く、いまでも憶えている。
黒田先生の「この中で形成する音量で」の発言にもあるように、
ヨーロッパのクラシック・レーベルの録音モニター時の音量は、
日本で想像されているよりもずっと低い、ということを、
このときのESL63Proの独特のセッティングと、そこでの音量が如実に語っていた。