現代スピーカー考(その32)
ピストニックモーションだけがスピーカーの目指すところではないことは知ってはいた。
そういうスピーカーが過去にあったことも知識としては知ってはいた。
ヤマハの不思議な形状をしたスピーカーユニットが、いわゆる非ピストニックモーションの原理であることは、
あくまでも知識の上でのことでしかなかった。
このヤマハのスピーカーユニットのことは写真で知っていたのと、
そういうスピーカーがあったという話だけだった。
ヤマハ自身がやめてしまったぐらいだから……、というふうに捉えてしまったこともある。
1980年ごろから国内メーカーからはピストニックモーションを、より理想的に追求・実現しようと、
平面振動板スピーカーがいくつも登場した。
そういう流れの中にいて、非ピストニックモーションでも音は出せる、ということは、
傍流の技術のように見えてしまっていた。
それに1980年代に聴くことができた非ピストニックモーションのスピーカーシステム、
BESのシステムにしても、オームのウォルッシュドライバーにしても、完成度の低さがあり、
それまで国内外のスピーカーメーカーが追求してきて、あるレベルに達していた剛の世界からすれば、
非ピストニックモーションの柔の世界は、
生れたばかりの、まだ立てるか立てないか、というレベルだった、ともいえよう。
それに聞くところによると、
ウォルッシュ・ドライバーの考案者でウォルッシュ博士も、
最初はピストニックモーションでの考えだったらしい。
けれど実際に製品化し研究を進めていく上で、
ピストニックモーションではウォルッシュ・ドライバーはうまく動作しないことに気づき、
ベンディングウェーヴへと考えを変えていったそうだ。
当時は、ベンディングウェーヴという言葉さえ、知らなかったのだ。