Archive for 8月, 2022

Date: 8月 4th, 2022
Cate: 戻っていく感覚

ラックス MQ60がやって来る(その5)

左右対称で重量バランスも配慮されているから、
MQ60のレイアウトは、ステレオ真空管パワーアンプとして理想かといえば、
そうとはいえないところが難しいところだし、オーディオの面白さでもある。

MQ60では出力管は出力トランスの前にある。
電圧増幅管は出力トランスと電源トランスに挿まれるように配置されている。

この点が気になる。
ならば出力管と電圧増幅管の位置を変更したら──。

トランスからの干渉を抑えるという点ではいいけれど、
見た目の印象はずいぶんと変化してしまう。

出力管四本がシャーシー前面にあるのと、
トランスに挿まれてしまうのとでは、
多くのオーディオマニアはどちらを選ぶだろうか。

それに出力管をトランスで挿む配置にすると、
出力トランスと電源トランスの距離を、かなり広げることになる。

電圧増幅管と出力管とでは大きさが違うし、発熱量も違う。
そうなるとシャーシーが全体に横に長すぎるプロポーションになるし、
うまく処理しないと間が抜けた印象にもなりがちだ。

MQ60は1972年に、無帰還設計のMQ60Cが出ている。
レイアウトはMQ60そのままである。

さらに1978年に、MQ68Cが登場した。
MQ60とMQ60Cを一つにまとめたといえるアンプで、
NFB量を0dBと16dBにきりかえることができる。

MQ60のレイアウトを継承したアンプは、ここで一旦途切れるが、
1980年代にはMQ88でふたたび採用され、現行機種のMQ88uCもそうである。

そういえば、いま書店に並んでいる管球王国 105号でMQ88uCが取り上げられている、とのこと。
その記事で写真の説明文に、
MQ88uCのデザインは、1969年発売のMQ66のデザインを継承している──、
そんなことが書かれている、と友人から連絡があった。

友人は、「MQ66なんて、ラックスの製品にはないよね」という確認も含めてだった。
私は管球王国 105号をまだ見てないけれど、
ほんとうに説明文にMQ66とあるのだとしたら、MQ60の間違いである。

Date: 8月 3rd, 2022
Cate: 戻っていく感覚

ラックス MQ60がやって来る(その4)

MQ60は、1969年に登場している。
当時、MQ60のラックス製品中の位置づけはどうだったのかは知らない。

私がオーディオに興味を持ち始めたのは1976年秋からで、
そのころのラックスの真空管パワーアンプのラインナップを眺めると、
MQ60は中級クラスの製品であった。

完成品のラックスだけでなく、ラックスキットにおいても中級品といえる。
A2500がKMQ60よりも安価だったが、それ以外の製品はすべてKMQ60よりも高価だった。

そんななかにあって、MQ60(KMQ60)の真空管、トランス類のレイアウトは違っていた。

6RA8プッシュプルのA2500、EL34プッシュプルのA3500、8045GプッシュプルのA3600、
6336AプッシュプルのKMQ80、いずれとも違うレイアウトの採用である。

A2500、A3500、A3600、これら三機種のレイアウトは共通している。
トランスという重量物を、シャーシー両端に配している。

シャーシーの片側に出力トランス、
その反対側に電源トランスとチョークコイルと、
中央の真空管群をはさむようなレイアウトである。

マイケルソン&オースチンのTVA1も基本的に、同じレイアウトである。

KMQ80はトランス類をシャーシー後方に横一列に配している。

つまりラックス(キット)を含めて、ステレオ仕様の真空管パワーアンプのなかで、
MQ60のレイアウトはこれだけが左右対称となっている。

シャーシー左右両端に、出力トランス、
シャーシー中央に電源トランスなのだが、
出力トランスはシャーシー後方寄りに、
電源トランスはシャーシー前方寄りになっているため、
三つのトランスが横一列に並んでいるわけではない。

トランスという重量物が複数シャーシー上に並ぶ真空管アンプでは、
これまで別項で指摘してきているように、重量バランスヘの配慮が重要となる。

MQ60は、左右対称とともに重量バランスもとっている。
A2500、A3500、A3600も重量バランスはとれているけれど、
左右対称とはいえない。

Date: 8月 3rd, 2022
Cate: 新製品

Meridian 210 Streamer(その2)

210の取り扱いが正式に発表になっている。
発売開始は8月22日、価格は163,900円(税込み)。

210は、コアデコード機能をもつ。
だからこそ、210の日本での発売を首を長くして待っていた。

Date: 8月 2nd, 2022
Cate: 四季, 真空管アンプ

真空管アンプの存在(と四季)

瀬川先生が、「コンポーネントステレオの世界 ’80」の巻頭で、
こんなことを書かれている。
     *
 秋が深まって風が肌に染みる季節になった。暖房を入れるにはまだ少し時季が早い。灯りの暖かさが恋しくなる。そんな夜はどことなく佗びしい。底冷えのする部屋で鳴るに似つかわしい音は、やはり、何となく暖かさを感じさせる音、だろう。
 そんなある夜聴いたためによけい印象深いのかもしれないが、たった昨晩聴いたばかりの、イギリスのミカエルソン&オースチンの、管球式の200ワットアンプの音が、まだわたくしの身体を暖かく包み込んでいる。
     *
今日は8月2日。真夏の真っ只中。
瀬川先生がこの文章を書かれた時よりも、ずっとずっと暑い夏をわれわれは体験している。

瀬川先生は、ステレオサウンド 52号の特集の巻頭で、こうも書かれている。
     *
せめてC240+TVA1なら、けっこう満足するかもしれない。ただ、TVA1のあの発熱の大きさは、聴いたのが真夏の暑さの中であっただけに、自家用として四季を通じてこれ一台で聴き通せるかどうか──。
     *
TVA1はKT88のプッシュプルで、出力管は四本。
M200はEL34の4パラレル・プッシュプルで、出力管はステレオで十六本。

発熱量はそうとうに違う。
M200をTVA1と同じ真夏の暑さの中だったら、どうであったろうか。

井上先生は、
季節によって聴きたい音楽、聴きたい音が変ってくることについて、よく口にされていた。
真空管アンプの音が聴きたくなるのは涼しくなってきてから、ともよく言われていた。

こんなことを思い出して書いているのは、
いまヤフオク!に、ジャディスのJA200が出品されているからだ。

今日の22時すぎに終了を迎えるが、いくらで落札されるのだろうか──、
そのことよりも、JA200を落札した人は、この暑い暑い真夏の真っ只中、
JA200で鳴らすのだろうか──、ということに関心がある。

JA200はステレオサウンド時代に聴いている。
どのくらいの落札価格が適切とか、そんなことは書かないが、
JA200の発熱量は半端ではない。

KT88の5パラレル・プッシュプルだから、両チャンネルで二十本である。
TVA1の五倍の規模であるし、厳密ではないものの、約五倍の発熱量である。

入札、応札している人たちが東京の人とはかぎらない。
もっと涼しいところに住んでいる人かもしれない。

それにしても、あの発熱量をわかったうえで、JA200を欲しがっているのだろうか。

Date: 8月 2nd, 2022
Cate: 名器
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ヴィンテージとなっていくモノ(人もなのか)

ヴィンテージ・ピアニストの魅力」という本が、
9月26日に発売になる、とのこと。

一ヵ月以上先の発売なのだから、読んでいるわけではない。
本の内容についてあれこれ書くわけではない。

タイトルへの違和感をおぼえたからである。
この本で取り上げられている「ヴィンテージ・ピアニスト」は、現役のピアニストである。

誰について書いていて、誰について書いていないかではなく、
現役、つまり生きている人に「ヴィンテージ」とつけていることに、
私は違和感しかない。

ヴィンテージという言葉を、そもそも人につけるのだろうか。
少なくとも私は、今日初めて目にした。

それでもすでに物故した演奏家、
しかも数十年前にこの世を去った演奏家にもかかわらず、
いまなお多くの聴き手に聴かれていて、
しかも新しい聴き手を呼び起こしている人たちに、ヴィンテージとつけるのであれば、
まだなんとなくではあっても納得できなくもないが、
生きている(現役の)人につけることに、編集部は何も思わなかったのか。

それとも、これがいまの感覚なのか。
違和感を持つ私の感覚が古い、といわれればそれまでだけど、
それでも、人にヴィンテージとつけるのは、おかしい。

Date: 8月 1st, 2022
Cate: 戻っていく感覚

ラックス MQ60がやって来る(その3)

ラックスは、なぜLX38としたのだろうか。
SQ38FD/IIIとしなかった理由は、ウッドケースをやすたからではなく、
内部を比較してみるとはっきりすることなのだが、
LX38はプリント基板を要所要所で使い、製造コストを抑えていることがわかる。

SQ38シリーズだったころとはワイヤリングがずいぶん違うし、
製造にかかる時間も手間もずっと合理化されたはずである。

なのでLX38とSQ38FD/II。
どちらも程度のよい中古があったとしたら、どちらがいいかと訊かれたら、
SQ38FD/IIと答える。
内部を見たくなる人ならば、よけいにそうだ。

でも私は、それでもLX38をとる。
五味先生が書かれたことを思い出す。
     *
最近、復刻盤でティボーとコルトーによる同じフランクのソナタを聴き直した。LPの、フランチェスカッティとカサドジュは名演奏だと思っていたが、ティボーを聴くと、まるで格調の高さが違う。流麗さが違う。フランチェスカッティはティボーに師事したことがあり、高度の技巧と、洗練された抒情性で高く評価されてきたヴァイオリニストだが、芸格に於て、はるかにまだティボーに及ばない、カサドジュも同様だった。他人にだからどの盤を選びますかと問われれば、「そりゃティボーさ」と他所ゆきの顔で答えるだろう。しかし私自身が、二枚のどちらを本当に残すかと訊かれたら、文句なくフランチェスカッティ盤を取る。それがレコードの愛し方というものだろうと思う。
(「フランク《ヴァイオリン・ソナタ》」より)
     *
レコードとアンプとでは話はまったく同じなわけではないのはわかっていても、
それがいいから必ずしも選ぶとはかぎらない。

ステレオサウンドの「世界のオーディオ」のラックス号の171ページに、
製品の型番のアルファベットについて書かれている。
それによると、
プリメインアンプはSQとL、
コントロールアンプはCLとC(旧製品はPZとPL)、
パワーアンプはMBとMQとM(旧製品はMVとMRとMA)、
チューナーはT(旧製品はWZとWLとVL)、
スピーカーはLX(旧製品は〜Hと〜CとS)、
プレーヤーはPD(旧製品はP)、
キットはKとA、
となっている。

1975年時点で、LXはスピーカーにつけられる型番だった。
それがプリメインアンプに移っている。

LX38は1978年に登場している。
それ以降、ラックスからスピーカーが登場していないのかというと、そうではない。
MSから始まる型番の製品がいくつか出ていた。

Date: 8月 1st, 2022
Cate: 言葉

ひたむき(続・音になる前の「音」)

マンガ「ちはやふる」が今日最終回をむかえた。
十五年の連載だった。

前回「ひたむき(音になる前の「音」)」を書いたのは、2013年。
まだMQAは登場していなかった。

音になる前の「音」。
MQAの良さを感じとっている人ならば、きっと感覚的であっても理解できるはず。

Date: 8月 1st, 2022
Cate: 戻っていく感覚

ラックス MQ60がやって来る(その2)

真空管の音は、それ以前もラジオやテレビで聴いていたけれど、
オーディオアンプとしての真空管の音は、私にとって、その最初はラックスのLX38だった。

これまでのオーディオ歴で、真空管アンプは四台使ってきた。
チューナーは一台である。
ただ、どの機種にしても長期間愛用してきたとはいえない。

そんな私のところに、ラックスのMQ60がくる。
SQ38FDとLX38のパワーアンプの回路がどの程度違っているのは、調べていない。
二機種の回路図を比較すれば、多少の違いはあるだろうけれど、
基本的には同じ回路だと思われる。

ということはLX38のパワーアンプ部とMQ60は回路的には同じだろう。
そのMQ60が、LX38を聴いた日から四十年以上経って、私のところにやって来る。

不思議な感覚だからこそ、この項のテーマは真空管アンプではなく「戻っていく感覚」である。