Archive for 11月, 2012

Date: 11月 4th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(続×十六・チャートウェルのLS3/5A)

マランツのModel 7もマッキントッシュのC22も、
信号系のコンデンサーにはスプラーグのBlack Beauty、
固定抵抗はアーレン・ブラッドレーのもの、
真空管は12AX7、と使用部品に共通するところは多い。

けれどModel 7とC22は、回路が違い、コンストラクション、配線が違い、筐体構造も違う。
それに設計した人が違う。

これらの違いにより、Model 7とC22の音の世界はまったく異るわけだ。

そう考えると、コンデンサーの銘柄を変更したところで、
Model 7が別のアンプになるわけでもないし、C22がModel 7になるわけでもない。
Model 7の世界にしても、C22の世界にしても、使用部品だけがつくりあげているわけではない。

だからといって、もともと使われていた部品よりも劣悪な部品に取り換えてしまうのだけは、なしである。
同等の部品、それ以上の部品であるということが、部品交換の条件となる。

こんなふうに言葉に書いてしまうと、そう難しいことではないようなことであっても、
人によって、同等の部品、それ以上の部品の判断が異ることがあるから、
難しくもあり、誤解を生むのだと思う。

Model 7に関しては、くり返し述べているように私ならASC(旧TRW)のコンデンサーに交換する。
C22で、そうするのか、と問われれば、考えてしまう。

Model 7のBlack BeautyをASCのコンデンサーに換えるのであれば、
C22のBlack BeautyもASCでいいではないか、となるのだけれど、
ここでModel 7とC22の違いが、コンデンサーの選択に関係してくる。

C22の毒を薬にのようにして、聴きやすく鳴らしてくれるところがもしかすると、
薄れてしまうかもしれないと思ってしまうからである。

Date: 11月 4th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その14)

ステレオサウンド 51号に載っている「続・五味オーディオ巡礼」に登場されているのは、
東京のH氏である。
他の号の「続・オーディオ巡礼」に登場している人の名前は出ていたし、顔写真も載っていた。
でも、51号のH氏だけは匿名で顔写真もない。

このH氏は、原田勲氏である。
ヴァイタヴォックスのCN191に、マランツのModel 7とModel 9のペア、
プレーヤーはEMTの927DstにカートリッジはフィデリティリサーチのFR7というシステム。

五味先生は
〝諸君、脱帽だ〟
 ショパンを聴いてシューマンが叫んだという言葉を思いだした、
と書かれ、
さらに47号の登場された奈良の南口氏の装置で、
「サン・サーンスの交響曲第三番の重低音を聴いて以来の興奮をおぼえたことを告白する」とまで書かれている。

原田編集長はその後、スピーカーをCN191からアクースタットのコンデンサー型に、
アクースタットからタンノイのRHR Limitedにされていて、
ヤマハのAST1の試聴時はRHR Limitedだったはず。

AST1を試聴した1988年の秋、
私はそのことに気がついていなかった。

クリプシュホーンのCN191を鳴らしてきた男が、ヤマハのAST1の低音に驚き、喜んでいる、ということに。

そして、もうひとつ気がついてなかったことがある。
クリプシュホーン、バックロードホーンは「音軸」をもつスピーカーである、ということを。

Date: 11月 4th, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その13)

AST1の音は、トータルでいえば、それほど優れているわけではない。
けれど、低音の素晴らしさは、見事だった。
その見事さは、ウーファーの口径が16cmなのに、
エンクロージュアのサイズがW18.8×H29.7×D23.3cmという小型にも関わらず、
といったエクスキューズなしのものだった。

スピーカーシステム2本と専用アンプで135000円ということは、
それぞれが40000円ちょっと価格と考えられなくもない。

1本40000円から50000円のスピーカーシステムと、同価格帯のプリメインアンプの組合せのほうが、
トータルで得られる音は、もうすこし品のあるものが得られるだろうけど、
AST1で味わった興奮は、得られない。

私も少なからず興奮していた。
でも私以上に、私の何倍も興奮していたのは長島先生と原田編集長だった。
このふたりが興奮していたのも、もちろん低音に関して、である。

長島先生、原田編集長の興奮には、喜びがあったように、私は感じていた。
私の興奮には、ふたりが感じていた喜びはなかった。

ふたりの喜びとは、それまでの長いオーディオ遍歴において求めつづけてきていた「低音」が、
AST1で実現できた、聴くことができた、そんな感じをうける喜び方だった。

「こういう低音が欲しかったんだ」という言葉も、そのとき聞いた。

AST1の低音は見事ではあった。
それでもクォリティ的にはまだまだ上があるのは感じさせるレベルであったし、
そんなことは長島先生、原田編集長は私よりもずっとわかったうえで、
低音の出方そのものに対しての「こういう低音が欲しかったんだ」だと思う。

Date: 11月 3rd, 2012
Cate: audio wednesday

第22回audio sharing例会のお知らせ

今月のaudio sharing例会は、11月7日(水曜日)です。

11月7日は、瀬川先生の命日ですので、
今回のテーマは「瀬川冬樹を語る」です。
昨年の11月も同じテーマで行っていますので、
また同じことを話すのか、と思われるかもしれませんが、
1年間、ブログを書いていると、気づくことがいくつかあって、
それにたった1回だけでは語り尽くせないテーマでもありますから、
またか、と思われても、1年前と同じテーマでやります。

来年の11月も、同じテーマでやります。
語り尽くせた、と私が実感できるまで、11月は同じテーマでやる予定です。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目の喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 11月 3rd, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その12)

1988年秋に、ヤマハからAST1が登場した。
AST1は、16cm口径のコーン型ウーファー、3cm口径のドーム型トゥイーターの2ウェイの小型スピーカーと、
専用アンプを組み合わせたシステム全体の総称である。

ASTは、他のオーディオメーカーが商標登録していたため、すぐにYSTという名称に変更されている。
AST1は、このYST方式を最初に採用したモデルだ。

AST1は、この年のステレオサウンドのCOMPONENTS OF THE YEAR賞の特別賞に選ばれている。
正確にはAST1が選ばれたのではなく、AST方式に対しての特別賞なのだ。

なぜAST1そのものに賞が与えられなかったかというと、
トゥイーターのクォリティがそれほど高くないこと、
専用アンプのクォリティもそれほど高くないこと、
つまりAST方式の可能性を高く評価してのものであって、
AST1という、135000円のシステムについては、注文も多かった。

それでも、AST1の低音再生能力の高さは、驚くべきものであったし、
だからこそ特別賞に選ばれているのだ。

いまはステレオサウンド・グランプリと名称は変っているけれど、
この賞の選考は毎年11月1日に行われる。
なので10月は、各社、各輸入商社が推すオーディオ機器の、賞に向けての試聴が行われる。
選考委員の方々の自宅で行われることもあるし、
メーカー、輸入商社の試聴室ということもあるし、ときにはステレオサウンドの試聴室で、ということもある。

AST1の、そういう試聴がステレオサウンドの試聴室であった。
長島先生と、当時の編集長で選考委員でもあった原田勲氏が聴かれた。

この日のことは、よく憶えている。

Date: 11月 3rd, 2012
Cate: 現代スピーカー

現代スピーカー考(その29)

筒とピストンの例をだして話を進めてきているけれど、
この場合でも筒の内部が完全吸音体でなければ、
ピストン(振動板)の動きそのままの空気の動き(つまりピストニックモーション)にはならないはず。

どんなに低い周波数から高い周波数の音まで100%吸音してくれるような夢の素材があれば、
筒の中でのピストニックモーションは成立するのかもしれない。

でも現実にはそんな環境はどこにもない。
これから先も登場しないだろうし、もしそんな環境が実現できるようになったとしても、
そんな環境下で音楽を聴きたいとは思わない。

音楽を聴きたいのは、いま住んでいる部屋において、である。
その部屋はスピーカーの振動板の面積からずっと大きい。
狭い狭い、といわれる6畳間であっても、スピーカー(おもにウーファー)の振動板の面積からすれば、
そのスピーカーユニットが1振幅で動かせる空気の容量からすれば、ずっとずっと広い空間である。
そして壁、床、天井に音は当って、その反射音を含めての音をわれわれは聴いている。

そんなことを考えていると、振動板のピストニックモーションだけでいいんだろうか、という疑問が出てくる。

コンデンサー型やリボン型のように、振動板のほぼ全面に駆動力が加わるタイプ以外では、
ピストニックモーションによるスピーカーであれば、振動板に要求されるのは高い剛性が、まずある。

それに振動板には剛性以外にも適度な内部損失という、剛性と矛盾するような性質も要求される。
そして内部音速の速さ、である。

理想のピストニックモーションのスピーカーユニットための振動板に要求されるのは、
主に、この3つの項目である。

その実現のために、これまでさまざまな材質が採用されてきたし、
これからもそうであろう。
ピストニックモーションを追求する限り、剛性の高さ、内部音速の速さは重要なのだから。

このふたつの要素は、つまりは剛、である。
この剛の要素が振動板に求められるピストニックモーションも、また剛の動作原理ではないだろうか。

剛があれば柔がある。
剛か柔か──、
それはピストニックモーションか非ピストニックモーションか、ということにもなろう。

Date: 11月 2nd, 2012
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その11)

クリプッシュホーンの、こういう構造はデメリットとして考えていた。
クリプシュホーンを採用するかぎり、ウーファーはどんなユニットをもってこようと、
それほど高い周波数までの再生は無理である。

ウーファーに再生能力があっても、折り曲げられたホーン内を通ってくるあいだに、
高い周波数は減衰してしまう。
だからエレクトロボイスのパトリシアンではウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数は200Hzと、
あの時代のスピーカーシステムとしては、異例といえるほど低い。

ヴァイタヴォックスのCN191は2ウェイということもあって、
クロスオーバー周波数は500Hzと少し高い値になっている。
そのため、CN191は340Hz付近で10dB程度のディップを生じている。

これはクリプシュホーンを採用している以上避けられないこと。
誰が考えても明白なことで、
クリプシュホーン採用のスピーカーシステムをつくっていたメーカーの人間は、
当然、このデメリットはわかった上でなお採用しているのはなぜだろう? と考えたことがあった。

もうずっと前のことだ。
オーディオに興味を持ちはじめたころ、
クリプシュホーンがどういうものかを知ったときのことで、
まだ10代半ばだった私は、低音までのオールホーンシステムをつくるために、
ある意味、止むを得ずの選択だったのだろう、と結論づけてしまった。

それを、いまは訂正しなければならないかも、と思っている。
そう思わせたのは、この項の(その9)に書いたBALMUDAの扇風機である。

Date: 11月 2nd, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(続×十五・チャートウェルのLS3/5A)

真空管アンプ時代のマランツとマッキントッシュの音の違いとは、いったいどういうものだったのか。
それを、「世界のオーディオ」のMcINTOSH号の、この記事はうまく伝えている。

瀬川先生の、こんな発言がある。
     *
マランツで聴くと、マッキントッシュで意識しなかった音、このスピーカーはホーントゥイーターなんだぞみたいな、ホーンホーンした音がカンカン出てくる。プライベートな話なんですが、今日は少し歯がはれてまして、その歯のはれているところをマランツは刺激するんですよ。(笑)マッキントッシュはちっともそこのところを刺激しないで、大変いたわって鳴ってくれるわけです。
     *
同じレコードをかけて、同じアナログプレーヤーとスピーカーシステムで聴いても、
マランツは歯の痛みを意識させ、マッキントッシュは歯の痛みを忘れさせる。

この違いは、どちらが音がいいとか、アンプとして優秀といったことではなく、
音楽への接し方・聴き方に関わってくる性質のものであり、
さらに聴き手の肉体の状態までも、関係してくる。

菅野先生は、別の表現で、マランツとマッキントッシュの違いを語られている。
     *
マランツだと、これはほかの機器の歪みだぞといった感じで、毒を毒のまま出しちゃうところがあったんですね。マッキントッシュの場合、例えばピックアップのあらとか、ソースのあらなどの、そうした毒をうまく薬のようにして、聴きやすく鳴らしてくれるところがありますね。
     *
菅野先生は、さらに的確な喩えをされている。
これも引用しておこう。
     *
この二つは全く違うアンプって感じですな。コルトーのミスタッチは気にならないけど、ワイセンベルグのミスタッチは気になるみたいなところがある。(大爆笑)これ(マッキントッシュ)はまさに愛すべきアンプだね。
     *
マランツの音には、ワイセンベルグのように、ミスタッチが気になってしまうところがある。
だから、私はModel 7のメンテナンスすることになったら、
コンデンサーをもともとついているBlack Beautyにはせず、ASCにする理由が、ここにある。

Date: 11月 2nd, 2012
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(その36)

井上先生が、目の前にあるアンプ、
この場合はコントロールアンプかプリメインアンプのことが多いのだが、
それらのツマミを必ず触られるのには、もちろん理由がある。

ひとつは例えばクロストークを確かめられるためでもある。
一般にクロストークといえば、左右チャンネル間での信号のもれとなるが、
井上先生がツマミをいじって確認されているのは、各インプット間のクロストークである。

つまりアナログディスクに入力セレクターを合せている状態で、CDを再生する。
CDプレーヤーとコントロールアンプもしくはプリメインアンプ間はケーブルでつながっていて、
アナログディスクは何もしていない。音楽は鳴らしていない。

そのままボリュウムをあげていくとフォノイコライザーのノイズが徐々に大きくなっていくとともに、
クロストークの多いアンプでは、本来ノイズ以外は聴こえてこないはずなのに、
CDの音がもれ聴こえてくる。反対の場合もありうるし、ほかの入力端子間でも起きることだ。
そのクロストークの音の量と質をチェックされていた。

これらのチェックの時、各種ツマミの感触も同時に確認されている。
特にボリュウムの感触は、じっくりと。

ボリュウムの感触は、レベルコントロールに使われている部品によっても異ってくるし、
同じ部品を使っていてもツマミの形状、重さ、材質によっても変化してくる。
そして、おもしろいことにボリュウムの感触は音の印象と一致することが多い。

たとえばマークレビンソンのアンプでいえばLNP2とML7では、
ボリュウムのメーカーが前者はスペクトロール、後者はP&Gであり、
廻したときの感触は正反対である。

LNP2ではツマミの後に、ほんとうにレベルコントロールがついているのか、と思うほど、
軽く、キュッキュッという感じがある。
ML7ではツマミの径がやや大きくなっているものの、基本的な形状はほぼ同じ材質も同じだが、
感触は重く、粘るような感じが、指先に伝わってくる。

どちらのボリュウムの感触を、さわっていて心地よいと感じるのかは人それぞれだろうし、
とちらのマークレビンソンのコントロールアンプの音が気に入っているかによっても違うだろう。

私が好きなのはキュッキュッとした感触のスペクトロールであり、
この感触こそがLNP2の音(個性)と一致しているように、私は受けとめているから、
もしLNP2にP&Gの部品がついていたら、LNP2への印象も変化していたのではなかろうか。

Date: 11月 1st, 2012
Cate: よもやま

五感があって……

今日、五能線という言葉を、ひさしぶりに目にした。
鉄道にそれほど関心がないから、前回目にしたのは、
いったいいつだったのか、記憶にないぐらい、そのくらいひさしぶりだったのだが、
五能線、という文字を眺めていて、いい言葉だな、と思っていた。

五感がある、ならば、五能があってもいいな、と
五能線から「線」をとり外して、鉄道とは全く関係ない言葉として受けとめていた。

五感は、いうまでもなく視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚、
五能は、五感のもつ可能とすること、とでも定義できよう。
そこから発展した定義もできそうな気がする。

五感があって、五能がある。
ならば、もうひとつ五のつく言葉はなんだろう、と考える。

五覚かもしれない、と思う。
覚める、という意味の五覚である。