「言葉」にとらわれて(その12)
1988年秋に、ヤマハからAST1が登場した。
AST1は、16cm口径のコーン型ウーファー、3cm口径のドーム型トゥイーターの2ウェイの小型スピーカーと、
専用アンプを組み合わせたシステム全体の総称である。
ASTは、他のオーディオメーカーが商標登録していたため、すぐにYSTという名称に変更されている。
AST1は、このYST方式を最初に採用したモデルだ。
AST1は、この年のステレオサウンドのCOMPONENTS OF THE YEAR賞の特別賞に選ばれている。
正確にはAST1が選ばれたのではなく、AST方式に対しての特別賞なのだ。
なぜAST1そのものに賞が与えられなかったかというと、
トゥイーターのクォリティがそれほど高くないこと、
専用アンプのクォリティもそれほど高くないこと、
つまりAST方式の可能性を高く評価してのものであって、
AST1という、135000円のシステムについては、注文も多かった。
それでも、AST1の低音再生能力の高さは、驚くべきものであったし、
だからこそ特別賞に選ばれているのだ。
いまはステレオサウンド・グランプリと名称は変っているけれど、
この賞の選考は毎年11月1日に行われる。
なので10月は、各社、各輸入商社が推すオーディオ機器の、賞に向けての試聴が行われる。
選考委員の方々の自宅で行われることもあるし、
メーカー、輸入商社の試聴室ということもあるし、ときにはステレオサウンドの試聴室で、ということもある。
AST1の、そういう試聴がステレオサウンドの試聴室であった。
長島先生と、当時の編集長で選考委員でもあった原田勲氏が聴かれた。
この日のことは、よく憶えている。