Archive for 10月, 2012

Date: 10月 3rd, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その10)

パワートランジスターは振動発生源であるわけだが、
その振動のモード、大きさは、
トランジスターの形状、材質によって変化するとともに、
電流が多く流されれば当然振動の発生は大きくなるわけである。

つまりA級アンプでアイドリング電流をつねに大量に流している状態では、
振動の発生は、他の動作のアンプよりも当然大きく、
しかもパワートランジスターを並列使用しているため、
振動発生源が多く点在することになり、それぞれの振動が干渉することも充分考えられるし、
ヒートシンクを含めての筐体の振動、共振をより複雑にしている、ともいえよう。

もちろんパワートランジスターを並列使用することで、
トランジスターひとつあたりのアイドリング電流は少なくなり、その分振動も少なくなるが、
仮にひとつのパワートランジスターで3Aのアイドリング電流を流した場合と、
3つのトランジスターを使い、ひとつあたり1Aのアイドリング電流を流した場合、
さらにトランジスターを10個並列にして、ひとつあたり0.3Aのアイドリング電流を流した場合、
このなかのどれが振動をコントロールしやすいか、を考えてみるのもおもしろい。

このあたりは、井上先生がいわれているスピーカーのエンクロージュアと同等の楽器的要素へとつながっている。
大口径のウーファーを鳴らすのか、
それとも口径の小さなウーファーをいくつか並列、もしくは直列接続して鳴らすのか、
複数のウーファーユニットを使う場合、その配置をどうするのか──、
同じことがパワーアンプにおいて、パワートランジスターの数と使い方にもあてはまる。

そういう観点からマークレビンソンのML2(No.20)とソニーのTA-NR10のヒートシンクまわりを比較してみると、
対照的であることがいくつもあり、実に興味深い。

Date: 10月 2nd, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その9)

マークレビンソンのML2には、そのパワーアップ版ともいえるNo.20がある。
No.20の開発は、マーク・レヴィンソンの手から完全に離れているパワーアンプで、
ML2がA級25Wの出力だったのに対し、A級100Wを実現している。

ソニーのTA-NR10も、A級100Wの、ML2、No.20同様モノーラル仕様であり、
パワーアンプとしての規模は同等ともいえよう。

ML2とNo.20の音は、同じマークレビンソン・ブランドであっても、
ML2、そしてマーク・レヴィンソンとジョン・カールがいた時代の同ブランドのアンプに惚れ込んだ者にとっては、
そうとうに異るアンプともいえるのだが、
ML2とNo.20の筐体構成・構造はほぼ同じといえるし、
この筐体構成が、ML2(No.20)とTA-NR10との大きな相違点であり、
私が2S305でグールドのゴールドベルグ変奏曲を聴くための組合せとして、
ソニーのTA-NR10を選ぶ理由に直結している。

仮にML2(No.20)とTA-NR10がまったく同じ回路構成で、しかも同じコンデンサーや抵抗を使っていたとしても、
マークレビンソンのA級100WとソニーのA級100Wとでは、音色において差が生じる。
そのくらい、このふたつのアンプの筐体構成・構造は違う。

こまかくひとつひとつ挙げていくときりがないので、
大きな点をひとつだけ書くとすると、やはりヒートシンクについて、である。

どちらもアンプもA級アンプが発する熱を、自然空冷で対処している。
そのためヒートシンクは、同じ出力のAB級、B級アンプと比較すると大型化してしまう。

さらに出力段のトランジスターの使用数も増える傾向にあるし、
それにアイドリング電流がかなり高めに設定されている。

このことは、井上先生が幾度となく書かれていたことでもあるが、
パワートランジスターは振動発生源であり、ヒートシンクはその形状からして音叉的存在である。
さらに井上先生は、
「アンプの筐体構造はスピーカーのエンクロージュアと同等の楽器的要素をもつことを認識すべきだ」
ともいわれている。

Date: 10月 2nd, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その8)

ダイヤトーンの2S305は、本来放送局用モニターとして開発されたスピーカーシステムだが、
家庭用としても使える優秀なスピーカーシステムとしての人気が高くなり、
生産が追いつかなくなるほど、コンシューマー用スピーカーシステムとして認識されていった。

古いスイングジャーナルの三菱電機の広告で、
2S305の生産が間に合わない、というお詫び広告もあった。

JBlの4343が、やはりスタジオモニターとして開発されたスピーカーシステムにも関わらず、
日本では家庭用に売行きを伸ばしていったことの先例であろう。

それにダイヤトーン自身が、2S305の後継機として、
AS3001(1965年)、AS3001S(1971年)、AS3002(1972年)、AS3002P(1977年)を発表している。
基本構成は30cm口径コーン型ウーファーと5cm口径のコーン型トゥイーターの2ウェイ
AS3002から2S305採用のPW125、TW25が、それぞれPW125A、TW25Aと改良型に変更されているけれど、
一貫して同じユニットを採用してきていた。

2S305の系譜はAS3002Pで終ったかのように思っていたら、
1990年に2S3003が登場してきた。
ウーファーは32cm口径コーン型、トゥイーターは5cm口径の、これもまたコーン型というと、
この時代のスピーカーシステムとしてはトゥイーターにあえてコーン型を採用しているという、
ある意味、珍しい構成のスピーカーシステムである。

2S305の系譜の最終形態とでもいえる2S3003は、
ダイヤトーンがコンシューマー用スピーカー開発で得た技術を、
スピーカーユニットにもエンクロージュアにも投入している。

ほぼ同口径のコーン型ユニットを採用していても、
2S305と2S3003とでは再生周波数帯域もずいぶん違う。
2S3003では50Hz〜15kHzだったのが、2S3003では39Hz〜30kHzと拡大している。
定格入力も20W(最初は15Wだったと記憶している)から80Wへ、
出力音圧レベルは2S305の96dBから94dBと少しばかり低下しているけれど、
耐入力の拡大、それに聴感上のS/N比を徹底して改善している設計方針により、
ダイナミックレンジも拡大していることだろうし、
ユニットの振動板、磁気回路などの再検討により低歪率も実現している。

2S305と比較するまでもなく、2S3003はまさしく現代スピーカーといえる内容をもっている。
2S3003を聴く機会はなかった。けれど、いまでも、ぜひ聴いてみたいスピーカーシステムであり、
日本製のスピーカーシステムをメインとして迎えるのであれば、
この2S3003かビクターのSX1000 Laboratoryのどちらかを、選択するとする断言できるほど、
いまも気になっているスピーカーシステムである。

そんな存在のスピーカーシステムであっても、
グレン・グールドのゴールドベルグ変奏曲を聴くために選ぶのは、2S305である。
その理由は、パワーアンプでソニーのTA-NR10を選ぶのとまったく同じだ。

Date: 10月 1st, 2012
Cate: SUMO

SUMOのThe Goldとヤマハのプリメインアンプ(その6)

Wiggins Circlotron Power Amplifierというものがある、ということはを知ったのは、
19歳のとき、AUDIO CYCLOPEDIAを購入したからだ。

まだこのころは真空管アンプの回路にそう詳しかったわけではない。
だから2ページ見開きで、回路図が載っているWiggins Circlotron Power Amplifierには惹かれたものの、
正直、動作に関して理解していたわけではなかった。

もちろんAUDO CYCLOPEDIAには解説文は載っている、英語で。
だから、もっぱら回路図を眺めるしか、理解の手はない。

ほとんどの場合、海図は片チャンネルだけ記載されることが多い。
AUDIO CYCLOPEDIAにも片チャンネル(1チャンネル)分の回路図が載っている。

Wiggins Circlotron Power Amplifierの回路図でまず目を引くのは、
整流管(6X4)が2本使われていること。
真空管アンプで、ステレオ仕様であっても整流管は通常1本のみということが多い。
2本使われていたとしても、左右チャンネル独立というものもあるけれど、
容量を増すための並列使用も、また多い。

Wiggins Circlotron Power Amplifierは、ステレオだと整流管を4本使用することになる。
なぜ、こんな大がかりなことをするのか。
電源ラインをおっていくと、通常のプッシュプルの真空管アンプとは電源のかけ方が異ることは、
AUDIO CYCLOPEDIAの他のページに載っている真空管アンプの回路図と見較べると、すぐにわかる。

Wiggins Circlotron Power Amplifierの回路図が載っている見開きの次のページには、
Wiggins Circlotron Power Amplifierの概略図も載っていた。

なにか違う……、
そのときは、ここまでの理解だった。
そして、しばらくこの回路のことは忘れていた。

Wiggins Circlotron Power Amplifierの存在を思い出したのは、
SUMOのThe Goldを手に入れて、
回路図も入手でき、The Goldの出力段の動作の解析を自分なりに行って、
自分なりに理解できて、ボンジョルノの天才性に感心していたときだった。

The Goldの購入は22歳のときだったから、3年以上の月日が、
Wiggins Circlotron Power Amplifierの理解に必要だったことになる。