日本のオーディオ、日本の音(その10)
パワートランジスターは振動発生源であるわけだが、
その振動のモード、大きさは、
トランジスターの形状、材質によって変化するとともに、
電流が多く流されれば当然振動の発生は大きくなるわけである。
つまりA級アンプでアイドリング電流をつねに大量に流している状態では、
振動の発生は、他の動作のアンプよりも当然大きく、
しかもパワートランジスターを並列使用しているため、
振動発生源が多く点在することになり、それぞれの振動が干渉することも充分考えられるし、
ヒートシンクを含めての筐体の振動、共振をより複雑にしている、ともいえよう。
もちろんパワートランジスターを並列使用することで、
トランジスターひとつあたりのアイドリング電流は少なくなり、その分振動も少なくなるが、
仮にひとつのパワートランジスターで3Aのアイドリング電流を流した場合と、
3つのトランジスターを使い、ひとつあたり1Aのアイドリング電流を流した場合、
さらにトランジスターを10個並列にして、ひとつあたり0.3Aのアイドリング電流を流した場合、
このなかのどれが振動をコントロールしやすいか、を考えてみるのもおもしろい。
このあたりは、井上先生がいわれているスピーカーのエンクロージュアと同等の楽器的要素へとつながっている。
大口径のウーファーを鳴らすのか、
それとも口径の小さなウーファーをいくつか並列、もしくは直列接続して鳴らすのか、
複数のウーファーユニットを使う場合、その配置をどうするのか──、
同じことがパワーアンプにおいて、パワートランジスターの数と使い方にもあてはまる。
そういう観点からマークレビンソンのML2(No.20)とソニーのTA-NR10のヒートシンクまわりを比較してみると、
対照的であることがいくつもあり、実に興味深い。