Archive for 12月, 2009

Date: 12月 16th, 2009
Cate: 604-8G, ALTEC, ワイドレンジ

同軸型ユニットの選択(その10)

レイモンド・クックもエド・メイも具体的な方法については何も語っていない。

ふたりのインタビューが載っているのは、
1977年発行のステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界’78」で、
当時出版されていたいくつかの技術書を読んでも、
ネットワークでの時間軸の補正については、まったく記述されてなかった。

だから、どうやるのかは皆目検討がつかなかった。
ただそれでも、ぼんやりとではあるが、コイルを多用するであろうことは想像できた。

同時期、アルテックの604-8Gをベースに、マルチセルラホーンを独自の、水色のホーンに換え、
604-8Gのウーファーとトゥイーターの時間差を補正する特殊なネットワークを採用したUREIの813が登場した。
813についても、ステレオサウンドに詳しい技術解説はなかった。

可能だとわかっていても、そのやり方がわからない。
少し具体的なことがわかったのは、ステレオサウンドの61号のQUAD・ESL63の記事においてである。
長島先生が書かれていた。

Date: 12月 16th, 2009
Cate: 604-8G, ALTEC, ワイドレンジ

同軸型ユニットの選択(その9)

ゆくゆくは604-8Gをマルチアンプ駆動で、チャンネルデバイダーはデジタル信号処理のものにして、
時間軸の整合をとった同軸型ユニットの音を鳴らしてみたい、とは思っている。

それでも最初はネットワークで、どこまでやれるかに挑んでみたい。
ネットワークの場合、時間軸の整合はとれないと考えている人が少なくないようだ。
コイルとコンデンサーといった受動素子で構成されているネットワークで、
604-8Gの場合、ウーファーへの信号を遅らせることは不可能のように捉えられがちだが、
けっしてそんなことはない。

たとえばQUADのESL63は、同心円状に配置した8つの固定電極のそれぞれに遅延回路を通すことにより、
時間差をかけることを実現している。
KEFのレイモンド・クックも、ネットワークでの補正は、高価になってしまうが可能だといっている。

またJBLに在籍した後、マランツにうつりスピーカーの設計を担当したエド・メイは、
マルチウェイスピーカーの場合、個々のユニットの前後位置をずらして位相をあわせるよりも、
ネットワークの補正で行なった方が、より正しいという考えを述べている。
ユニットをずらした場合、バッフル板に段がつくことで無用な反射が発生したり、
音響的なエアポケットができたりするため、であるとしている。

Date: 12月 16th, 2009
Cate: 604-8G, ALTEC, ワイドレンジ

同軸型ユニットの選択(その8)

604EとN1500Aの組合せにおける、こまかな工夫にくらべると、
604-8Gと、そのネットワークの組合せは、ウーファーもトゥイーターも正相接続で、
スピーカーの教科書に載っているそのままで、おもしろみといった要素はない。

それだけN1500Aと604-8G用ネットワークの仕様は違うわけだ。
だから管球王国 Vol.25にあるように、604-8GにN1500Aを組み合わせれば、
純正の組合せの音は、同じアルテックの604というスピーカーの中での範疇ではあるものの、
かなり傾向は異ってきて当然であろう。

優れたユニットであればあるほど、活かすも殺すもネットワーク次第のところがある。
604-8Gでシステムを構築するにあたって、ネットワークをどうするか。

604-8Gについているネットワークをそのまま使うつもりはない。
ひとつのリファレンスとして、純正ネットワークの音はいつでも聴けるようにはしておくが、
ネットワークに関しては、新たに作る予定でいる。

N1500Aと同じ回路のものを試しにつくってもいいが、私が参考にするのは UREIの813である。

Date: 12月 16th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その61)

ループ的に独立した2系統の出力を得るのに、いまのところ最適なのはトランス出力だろう。
2次側の巻線が2つ以上あるトランスを使えば、ループの問題はほとんど解決する。

そうなるとトランスを積極的に利用したくなる。
つまりサーロジックのサブウーファーの導入が、
トランスの負性インピーダンス駆動のことを思い出すきっかけとなった。

トランスの負性インピーダンス駆動の実験の前に、トランスの2次側の巻線の接続を変えて、
2系統の出力が得られるようにしてみる予定だ。

トランスによって、サーロジックのサブウーファーの信号系と、
メインスピーカーのパワーアンプまでの信号系が、ループ的には独立する。

実際にストレーキャパシティの存在によって、トランスの、ふたつの2次側巻線は、
高周波においてはループが形成されてしまい、完全な独立とはいえない。
けれど、トランスなしの状態で、コントロールアンプの出力を並列に取り出すよりも、
ずっとすっきりし、ループのサイズも小さくなる。

Date: 12月 15th, 2009
Cate: ジャーナリズム

オーディオにおけるジャーナリズム(その35)

オーディオの「現場」として、意見を率直に語り合う討論の場が、なぜ設けられないのか。

オーディオ雑誌の企画として、
オーディオ評論家(なかには、そう呼ばれているだけのひともいるが)が集まっての座談会ではなく、
メーカーの開発者、営業の人たち、輸入代理店の人たち、オーディオ販売店の人たち、
そしてユーザーの人たち、をも含めての討論の場の必要性を感じはじめている人はいるはずだ。

Date: 12月 14th, 2009
Cate: 「ルードウィヒ・B」

「ルードウィヒ・B」(その5)

「のだめカンタービレ」の音楽の表現のほうが、直感的に伝わってくるものがあり、
それはある種普遍的な要素が多いようにも思う。
それに「のだめカンタービレ」での音楽のコマは、ほとんどが演奏シーンでもある。

「ルードウィヒ・B」での音楽の表現は、音楽そのものを直接表現することと関係していて、
手塚治虫の主観によって画となる。
だから、その主観を読み解く難しさと面白さが、「ルードウィヒ・B」にはあるともいえる。

「のだめカンタービレ」では、1コマで表現されることはない。
いくつかのコマ、数ページにわたって、表現は構成されている。

「ルードウィヒ・B」ではときに1コマで、音楽という連続している作品、
時間軸とともにある作品を表現しているのは、
手塚作品におけるモブシーンと通底しているものが感じられるとともに、
手塚治虫の、マンガという手法の限界に挑んでいた迫力が、あるといってもいいだろう。

手塚治虫が健康で長生きされていれば、1コマのもつ迫力は増し、磨かれていったはずだ。

「のだめカンタービレ」は最終回を迎え、単行本も23巻が出ている。
8年間続いた連載が終ったわけだが、すでに番外「オペラ篇」がはじまっている。
「ルードウィヒ・B」の続きを読むことはできないが、「のだめカンタービレ」は、もうすこしつづいていく。

こんどは、言葉という具象的なものが、その音楽シーンに加わる。
それを二ノ宮知子がどう処理・表現していくのかも、ストーリーとともに大きな楽しみになっている。

Date: 12月 14th, 2009
Cate: 「ルードウィヒ・B」

「ルードウィヒ・B」(その4)

「のだめカンタービレ」では、音楽そのものを直接画で表現しようとはしていない、といってもいいだろう。

手塚治虫の「ルードウィヒ・B」での表現手法とは大きく異るのは、
作者の二ノ宮知子が女性であることと関係しているのかもしれないし、
性差は関係なく、世代の違いもあろうし、音楽の聴き方、というよりも捉え方の違いから生じたのかもしれない。

「のだめカンタービレ」での音楽シーンでは、必ずといってよいほど聴衆がそこにいて、
彼らの表情によって、そこに響いている音楽がどのように聴き手を捉えているのかが表現される。

「ルードウィヒ・B」に登場した平均律クラヴィーアのコマ(画)は、「のだめカンタービレ」には登場しない。

手塚治虫の作品には、ときどき、それまで見たことのない画が突如として現れる。
「ルードウィヒ・B」にも、現れている。
「のだめカンタービレ」には、現れない。

だが、どちらが音楽を、音のない画から伝えるか、という点では、二ノ宮知子の手法のほうが、
作品が長く続き、手法が洗練されてきたこともあって、完成度は高い。

音楽が、じーんと伝わってくる。

Date: 12月 13th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その60)

まず考えたのは、ラインアンプを2組設けることである。そうすれば出力端子は、
それぞれ独立して互いに影響し合うことを極力抑えられる。

とはいうものの、JC2やテァドラからフォノアンプのモジュールやカードを外した時の音を聴いた経験からすると、
アンプの数を安易に増やしたくはない。

フォノイコライザーアンプは、ラインアンプに対して直列に存在する。
もう1組のラインアンプは並列の関係にある。
だからフォノイコライザーアンプの存在がライン入力の音に及ぼす影響と、
ラインアンプがもう1組増えることによる音の影響は、必ずしも同じ変化で、同程度の変化ではないだろうが、
電源を完全に分離できない以上は、電源を介してのループの問題は依然残るし、
ノイズの干渉などについて考えると、2組のラインアンプを用意することは、賢明な手法とは思えない。

次に考えたのはラインアンプの出力段を複数設けることである。
この場合、ラインアンプは1組で、
トランジスターならば、エミッターフォロワーなりコレクターフォロワーの出力段を、
2組の出力が必要であればラインアンプの終段に2組設ける。
NFBはそれぞれの出力からかける。

2組のラインアンプを用意するよりは多少スマートではあるが、
アンプに電源が必要である以上、やはりループの問題を確実に解決できるわけではない。

Date: 12月 12th, 2009
Cate: 604-8G, ALTEC, ワイドレンジ

同軸型ユニットの選択(その7)

つまり、604Eは、N1500Aを接いで鳴らすと、ウーファーは逆相接続になる。
プラスの信号が入力されると、コーン紙は前にではなく、後に動く。

もちろんウーファーを正相接続にして、トゥイーターの極性を反転させるという手もあるだろうし、
ウーファーもトゥイーターも正相接続もあるなかで、
アルテックは、ウーファーを逆相にするという手を選択している。

それに直列型のネットワークを採用する例では、ウーファーのプラス端子が、
そのまま入力端子のプラスとなることが多いはずだが、
この点でも、604EとN1500Aの組合せは異る。

スピーカーユニットを逆相にすると、音の表情は大きく変化する。
フルレンジユニットで試してみると、よくわかる。

これらのことをふまえてN1500Aの回路図を見ていると、アルテックの音づくりの一端がうかがえる。

Date: 12月 11th, 2009
Cate: 604-8G, ALTEC, ワイドレンジ

同軸型ユニットの選択(その6)

604Eのネットワーク、N1500Aは、クロスオーバー周波数は1.5kHzで、
減衰特性はウーファーは6dB/oct.、トゥイーターは12dB/oct.。
604-8Gのネットワークとはスペックの上では減衰特性が異るわけだが、
もっとも大きな違いはスペックに、ではなく、回路構成にある。

いま市販されている大半のスピーカーのネットワークは、並列型であろう。
604-8Gのネットワークも並列型である。

パワーアンプから見た場合、ウーファーとトゥイーターに、それぞれネットワークの回路がはいったうえで、
並列接続されたかっこうになっている。だからこそ、バイワイアリングという接続方法も可能になる。

直列型は、文字通り、ユニットを直列接続した回路構成となっており、
ウーファーのマイナス端子とトゥイーターのプラス端子が接続される。
12dB/oct.の場合は、並列型と同じようにトゥイーターの極性を反転させることもある。

604Eと直列型のネットワークN1500Aの組合せもその例にもれず、
ウーファーとトゥイーターのマイナス端子同士が接続される。
一見、トゥイーターの極性を反転しているかのように思えるが、
N1500Aの入力端子のプラス側は、トゥイーターのプラス側に接がっている。

Date: 12月 10th, 2009
Cate: 音楽性

「音楽性」とは(その2)

黒田先生がアクースタットからアポジーに替えられた理由について、や、「同軸型ユニットの選択」の項を、
これから書いていくにあたってはっきりしておかなくてはならないと思っていることとして、
「ひたる」と「こもる」がある。

たとえば、異常に高価なアクセサリーのはびこりは、「こもり」から生れてきたといえるのではないか……。
音楽性を歪める大きな要因のひとつとなっていくのではないか……。

「こもり」は、オーディオが本来的にもつ性質でもあるからこそ、
聴き手がそこに嵌ってしまうことは、オーディオの罠に知らぬうちに嵌ってしまうことでもあろう。
しかも、「こもり」「こもる」は、ネットワークと結びついてひろがり、
それを本人には気づかせない面ももちはじめているようでもある。

Date: 12月 9th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その18)

なにも、349Aのアンプが、はじめて聴いた真空管アンプではない。
それ以前にも、それほど数は多くないものの、主だったもののいくつかは聴いている。

管球式であることを、どちらかといえば悪い意味で意識するアンプはあった。
よい意味で、つよく意識したのは、349Aのアンプがはじめてだった。
最初は、349Aという、この小さな出力管のよさだと思った。
次に、これがウェスターンなのか、とも思った。

だから、349Aのアンプを自作しよう、と思った。
もっとも自作するしか、他に手はないのだが。
最初は、ウェスターンの資料を見ながら、どの回路構成にするか、迷っていた。
ウェストレックスのA10の回路を元にした伊藤アンプのデッドコピーをつくるという考えは、
なぜだかなくて、すこしでも、もっといい349Aのアンプをつくろうという欲があって、
他の回路に目移りしていた。

けれど、そんなとき、思い出したことが、あった。

整流管を274Bに交換した時の音、であった。

Date: 12月 8th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その17)

音が歇んでいく様の美しさに関係することでいえば、低音の透明感の違いも大きい。
ウーファーが鳴りやんでいなければならないときでも、
どこかしらざわざわして、落着きのない子供のように、じっとしていることができなかったのが、
349Aのアンプでは、息をひそめたかのように鳴りやむ。

こういう低音の鳴り方、質感は、それまで聴いたことがなかった。
MC2300の低音とも違うし、このとき比較したわけではないが、
別の場所、別の機会で聴くことができた、他のパワーアンプとも違う。
マークレビンソンのML2Lとも、SUMOのTHE GOLDとも違う。
トランジスター式のパワーアンプで、こういう低音の鳴り方に近い音を出してくれたのは、
スレッショルドの800Aだったように思う。

その800Aでも、記憶のなかでの比較になってしまうが、こうまで、
歇んだ静寂の美しさはなかったように思うし、
349Aのアンプによる静寂さには冷たさはなく、ぬくもりのようなものを感じられる。

だから、349Aのアンプにころっとまいってしまった。

Date: 12月 7th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その16)

伊藤先生製作の349Aプッシュプルアンプと、マッキントッシュのMC2300の違いで、
そのときの私にとって、いちばん大きな違いであり、決定的な違いだったのは、
気配の静けさだったように、いまふりかえってみると、思えてくる。

6畳ほどの、特に広くない部屋で、能率の高いJBLの2220Bと2440+2397の組合せ、
それも長辺方向に置いてあったので、スピーカーとの距離はかなり近い。

そういう条件下で聴いていると、MC2300の音の気配には、どこかざわざわしたものがついてまわる。
だから音が消えゆくときにも、ざわざわした気配が感じられ、物理的な音圧は減衰していっても、
聴感上、心理的な音圧はそれほどさがったようには感じられない。

349Aのパワーアンプのほうはというと、静かな気配がある。
だから物理的な音圧の減衰以上に、音が消えゆくように感じられたのではなかろうか。

同軸型ユニットの選択(その5)

おそらく杉井氏は、604-8Gと604-8Hのネットワークを混同されていたのだろう。
勘違いの発言だったのだろう。

604-8Hはマンタレーホーンを採用している関係上、ある帯域での周波数補正が必要となる。
それに2ウェイにも関わらず、3ウェイ同様に中域のレベルコントロールも可能としたネットワークであるため、
構成は複雑になり、使用部品も増えている。

だから、杉井氏の発言は、604-8Hのネットワークのことだろう。
勘違いを批判したいわけではない。

この記事の問題は、その勘違いに誰も気がつかず、活字となって、事実であるかのように語られていることである。

この試聴記事に参加されている篠田氏は、エレクトリでアルテックの担当だった人だ。
アルテックについて、詳しいひとのはずだ。
604-8Gと604-8Hのネットワークについて、何も知らないというのはないはずだ。

本来なら、篠田氏は、杉井氏の勘違いを指摘する立場にあるべきだろうに、
むしろ「アルテックの〝あがき〟みたいなものがこの音に出ている」と、肯定ぎみの発言をされている。