Archive for category オーディオのプロフェッショナル

気になっている(その4)

オーディオの玄人について、いずれ詳しく書きたいと思っているが、
ここでは、オーディオの素人に絞っていくつもりだ。

オーディオの玄人をオーディオを本職とする人ということになれば、
オーディオの素人は、オーディオに強い関心をもっているけれど、本職としていない人ということになる。
オーディオマニア、オーディオファイルと呼ばれている人は、
ほぼみんなオーディオの素人ということになるわけだが、この項の(その1)で、
オーディオに関心のない人のことをオーディオの素人と表現した彼は、オーディオを仕事とはしていない。

そうなると、彼もまたオーディオの素人ということになる。
けれど、彼自身はオーディオの素人だとは、おそらく思っていないはず。
思っていないからこそ、オーディオに関心のない人のことをオーディオの素人と、
特に意識することなく、そう呼んだのだ。

ここで考えるのは、私自身のことである。
私は、いまオーディオを本職としていない。
オーディオで生計をたてているわけではない。
その意味では、私もオーディオの素人ということになるが、
自分のことをオーディオの素人とは思っていない。

もしかするとオーディオに関心のない人のことをオーディオの素人と呼んだ彼も、
私と同じなのだろうか。

彼はオーディオの玄人と自称したいのかもしれないが、私はそんな気もない。
玄人という言葉があまり好きでないからであって、専門家というのもしっくりこないから、使いたいとは思わないが、
一つの物事に熟達した、という意味でのオーディオの玄人という自負はもっている。

気になっている(その3)

玄人とは辞書には、一つの物事に熟達した人。専門家。本職、とある。
英語ではprofessional、specialist、expertとなる。

オーディオの玄人とはオーディオの専門家、もしくはオーディオを本職とする人と、まず考えられる。
オーディオを本職とする人──、
つまりオーディオを仕事として対価を得ている人ということになる。

オーディオメーカーに勤めている人が、それにあたる。
何もメーカーの技術職の人だけでなく、営業関係の人もオーディオを仕事にしているわけだから、
オーディオの玄人ということになる。

輸入商社の人にも同じことがいえる。

他にもオーディオ店で働いている人。
彼らもまたオーディオを仕事としているわけだから、オーディオの玄人であるわけだ。

それからオーディオ雑誌の編集者もそうなる。
オーディオメーカーの技術職だけでなく営業関係の人もオーディオを仕事にしているのと同じように、
オーディオ雑誌を出版している会社の、
編集部以外の部署の人たちもオーディオの玄人と言おうと思えばいえなくもない。

とはいえ現実にはオーディオメーカーの営業関係の人たち、
出版社の編集部以外の人たちを、ここで無理に含める必要はない。

そしてオーディオ評論家、と現在呼ばれている人たちも、またオーディオの玄人ということになる。

こういう人たちがオーディオの玄人として挙げられるが、
果してオーディオを仕事にしているだけでオーディオの玄人と呼べるのだろうか。

気になっている(その2)

ここでいうところの「オーディオの素人」とは、
オーディオに関心のない人、オーディオを趣味としていない人のことである。

そういう人たちのことを、そのイベントに出かけていった人は「オーディオの素人」と呼んだわけだ。
なぜ、彼はそう呼んだのか。

私ならば、オーディオに関心のない人、オーディオを趣味としていない人、といった言い方をするところを、
彼は「オーディオの素人」と呼ぶ。

この表現が出た時は、これより優先したことがあって、そちらについて話していたから、
その場では「オーディオの素人」という表現について、その人と話すことはなかった。

けれど帰りの電車のなかで、やはり気になってきた。
なぜ「オーディオの素人」という表現なのか。

素人の対義語は玄人になる。
ということは「オーディオの素人」を口にした彼は、自身のことを「オーディオの玄人」だとしているのか。
だとしたら「オーディオの玄人」とはいったいどういう人のことなのか。

「オーディオの素人」をオーディオに関心のない人とすれば、
ここでの「オーディオの玄人」はオーディオに関心のある人、オーディオを趣味としている人となるわけだが、
これでは釈然としないものがのこる。

もしかするとオーディオで苦労している人、
つまり苦労人(くろう・と」と呼ぼうとすればそう呼べる。
そういう意味での玄人(苦労人・くろうと)が頭にあっての「オーディオの素人」なのか、
そんなどうでもいいことも考えながら、オーディオにおける素人・玄人の違い、分けるものは何なのか。
そして彼はなぜ「オーディオの素人」と呼ぶのか。
彼自身は「オーディオの玄人」だと思っているのか。

そんなことが気になっている。

気になっている(その1)

ある話の中で「オーディオの素人」という表現が出た。
私が言い出したわけではない。

ある人が、あるイベントに行きそこでの感想を述べたときに使われたのが「オーディオの素人」だった。

その人が行ったイベントは、いわゆるレコードコンサートといえるものだった。
昔よく行われていたレコードコンサートはオーディオメーカー主催で、
そこでかけられるのはLPだった。

今回のレコードコンサートはCDが主体で、
CDをかけるためにナマの演奏が行われたそうだ。

その人はイベントが終ってしばらくのちに、
インターネットでこの日のイベントのことを検索してみた。
いくつかあった、とのこと。

そこで彼の目を引いたのは、「やっぱりナマの演奏は良かった」だった。
そして、彼はこう書いた人たちのことを「オーディオの素人」とひと括りに表現したわけだ。

Date: 10月 17th, 2013
Cate: オーディオのプロフェッショナル

こんなスピーカーもあった(その3)

ステレオサウンド 57号にテクニカルノートという連載がある。
前号から始まった企画である。
57号では長島先生がマッティ・オタラにTIM歪、NFBのことについてインタヴューされている。
その他に、編集部によるテクニクスとビクター、サンスイのエンジニアへのインタヴューも載っている。

57号のテクニカルノートは、いずれもNFBに関する内容である。

このころ、テクニクスはリニアフィードバック、
ビクターはピュアNFB、サンスイはスーパーフィードバックという技術をそれぞれ開発して、
NFBという古くからの技術を、当時の現代技術によって見直している。

これらの詳細については、ここでの話とは関係ないが、
それでもここで話題にしているのは、テクニクスのインタヴューの中に、
ここでのことと関係しているエピソードが出てきていて、
それを読んだ時(1980年)、エンジニアとはそういうものなのだと感心したからである。

その部分を引用しておく。
     *
──リニアフィードバック(LFB)回路はテクニクスのオリジナルですか。
テクニクス これにはエピソードがあるんです。私どもに28歳の若い技術者がおりまして、あるとき彼が、もう裸特性の追求にも行きづまりがきたということで、このLFBのアイデアを出したんです。それでは彼のアイデアでやってみようということで、ちょうどSE−A5を出来ていたので急きょA5にこのLFBを搭載したわけです。そうしたら、クォリティが俄然上ったんですね。価格は安いけれどもA3のクォリティが得られたということで、一応満足したわけです。それで、一応特許関係を出そうということで調べたんですが、出るわ出るわ、そういう関連の特許が山ほど出てきたんです。アンプに詳しい数人の方からも、それに似た回路は二十数年前にもあったよ、というお話を伺いました。
 担当者にしてみれば、そういうベースなしにたどり着いたわけですから、「やった」と思ったんでしょうね。ところが、そういうわけで「ショボン」としてしまいました。
 確かに、20年ほど前の真空管アンプ時代に、無限大フィードバックの手法があります。しかし、実現はしなかったようです。クリップした時に発振してしまうので、みんなおやめになったようですね。
 ですから、オリジナリティがあるかといわれたら、基本的にはありません。しかし、アイデアはいただきましたが、実現したのはテクニクスの技術です。単にPFBを初段にかければいいというわけにはいきません。実現させるためのテクニックがいるのです。
     *
この事例はテクニクスに限ったことではないはずだ。
どのメーカーでも同じのはずであり、プロのエンジニアとして当然のこととしてなすべきことなのだから。

だが、そうでない人がいることを、
ステレオサウンド 57号を読んだ時からずいぶん経ってから知った。

Date: 10月 16th, 2013
Cate: オーディオのプロフェッショナル

こんなスピーカーもあった(その2)

昔、日本のスピーカーに、松ぼっくりをエンクロージュア内部に取り付けたスピーカーシステムがあった。
そのことは以前書いている。

今日、twitterを見ていたら、
道端に落ちている松ぼっくりを見て、同じようにエンクロージュア内の音の拡散に有効なのではないか、
とひらめいた、というツイートを目に留まった。

その人は炭化した松ぼっくりがいいのではないか、ということも書かれていた。
炭化した松ぼっくりは実際に売られていて、簡単に入手できる、とのこと。

このツイートをした人は、松ぼっくりを入れたスピーカーが、
過去に存在していたことを全く知らなかった人で、それでも松ぼっくりの形状を見ていて、
ひらめいた、ということだった。

この人はオーディオのアマチュアの方である。
つまりオーディオで収入を得ている人ではない、という意味でのアマチュアという表現である。

松ぼっくりを入れたスピーカーが存在していたのは、ずっと昔である。
私が井上先生から、その話をきいたのがすでに30年近く前のことで、
その時点で、井上先生は、昔はなぁ、といわれていたから、そうとうに前のことである。

人はこんなふうに同じことを発想することがある。
まったく何のつながりもない人が、同じことを発想する。

オーディオのアマチュアだからこそ、松ぼっくりを見てひらめいて、
まだ実際には試されていないけれども、
もし結果が良かったから、またツイートされるのかもしれない。
他にも同じことを考えている日とがいても不思議ではない。
その人も結果がよければブログなり、ウェブサイトで書かれるかもしれない。

こういうことができるのは(許されるのは)、アマチュアだからである。

これがメーカーのエンジニアならば、そうはいかない。
彼らはオーディオで収入を得ている、いわばプロフェッショナルである。

そのプロフェッショナルが、ここでの例と同じようにあることを発想したとしよう。
それが純然たる、その人自身の発明、発想であっても、
過去に同じ例がなかったのか、調べる義務がメーカーのエンジニアにはある。

こんなスピーカーもあった(その1)

駅までの1km弱のあいだの歩道に、いま松ぼっくりが落ちている。
私は実物を見たわけではないけれど、
昔、松ぼっくりがエンクロージュア内にはいっていたスピーカーがあった、ときいたことがある。

井上先生の話だと、
ある国産メーカー(ごく小さなメーカーだったそうだ)が新製品としてスピーカーシステムを、
ステレオサウンド試聴室に持ち込んできた。
音を聴くと、残念ながら評価に値するモノではなかったそうだ。
というよりも、あきらかに変な音がするスピーカーシステムで、
どこかこわれているんじゃないか、と中を確認しようと持ち上げたところ、
エンクロージュアの中からカサコソという、本来あり得ない音がきこえてきた。
部品でも外れているのかと思い確認したところ、
エンクロージュア内部には松ぼっくりと銀紙(アルミホイルだったかも)が吸音材の代りとして使われていた。
松ぼっくりは拡散のためで、銀紙は反射のためで、
つまりは定在波対策らしい、ということだった。

ずいぶん前の話だ。
こまかなことを聞いたのかどうかも忘れてしまっているが、
おそらくステレオサウンドが創刊されて数年ぐらいのことだと思っている。

私が体験した例では、やはり音がおかしい、どこか故障とまではいえないものの、
どこかおかしなところがあるんしじゃないか、と思われるスピーカーシステムがあった。
海外製だった。

それで開けてみよう、ということになった。
実は、これもエンクロージュアを揺すってみると異音がしていた。
案の定、ネットワークのプリント基板の固定が片チャンネルだけいいかげんだった。

そんなこともあるんだ、という笑い話である。