Archive for category Mark Levinson

Date: 5月 21st, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson, 瀬川冬樹

930stとLNP2(その4)

昨日、偶然にも入手出来た「コンポーネントステレオの世界 ’78」で、瀬川先生は、
4343に惚れ込まれた読者のために、最高に鳴らすための組合せとして、
EMT 930stとマークレビンソンLNP2Lを使われている。

組合せのラインナップの次のとおり。

スピーカーシステム:JBL 4343(¥680,000×2)
コントロールアンプ:マークレビンソン LNP2L(¥1,180,000)
パワーアンプ:SAE Mark 2600(¥755,000)
プレーヤーシステム:EMT 930st(¥1,150,000)
インシュレーター:EMT 930-900(¥280,000)
組合せ合計:¥4,725,000

4341と4343の違い、Mark 2500とMark 2600の違いはあるが、
瀬川先生が、当時常用されていたシステムそのままといえる組合せである。

4343について「JBLというメーカーは、時代感覚をひじょうに敏感に受け取って、
その時代時代の半歩前ぐらいの音を見事に製品化した」もので、
「ベストに鳴らすためには、プレーヤーからアンプまで、
やはり現代の最先端にある製品をもってくる必要がある」と言いながら、930st、である。

Date: 5月 21st, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson, 瀬川冬樹

930stとLNP2(その3)

「幻のEMT管球式イコライザーアンプを現代につくる」、
この長いタイトルを考えたのも記事の担当者も私で、
初回のカラーページで紹介したEMT純正の139、139stはどちらも完動品で、
155stとの比較試聴もやっている。

使ったプレーヤーは私が直前に購入したトーレンスの101 Limitedで、155stは内蔵した状態で、
139と139stは外付けで外部電源と接続し、いわゆる単体イコライザーアンプとして使った。
モノーラルの139は2台用意していたので、試聴はもちろんステレオで行なっている。

電源の違いも考慮にいれなくてはならないし、もう25年ほど前のことだから、かなり曖昧だが、
意外と管球式の2機種は古さを感じさせなかった。
むしろトランジスター式の155stに、どちらもいえば古さを感じた。
とはいえまとまりのよさは見事で、いわばアクの強いTSD15をうまく補正し活かしている感じは、
155stに分があったように記憶している。

瀬川先生は、ステレオサウンド別冊の「コンポーネントステレオの世界」の80年度版か81年版だったかで、
928を組合せで使われたときに、内蔵イコライザーアンプについて、
928内蔵のモノの方が設計が新しいので、155stよりも現代的な音になっている、といったことを発言されている。

ということは、アンプ単体として見てたときは、瀬川先生も、155stには、やや古さを感じられていたのだろう。
それでも自宅では、155stを通して使われていたはずだ。

Date: 5月 21st, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson, 五味康祐, 瀬川冬樹

930stとLNP2(その2)

やはり930stを愛用されていた五味先生は、どちらだったのか。
930stの内蔵アンプなのか、それともマッキントッシュのC22のフォノイコライザーアンプなのか。

「オーディオ愛好家の五条件」で真空管を愛すること、とあげられている。
「倍音の美しさや余韻というものががSG520──というよりトランジスター・アンプそのものに、ない。」とある。
しかし、別項で引用したように、930stの、すべて込みの音を高く評価されている。
ステレオサウンドにいたときに確認したところ、やはり内蔵の155stを通した音を日ごろ聴かれていたそうだ。

五味先生の930stは、オルトフォン製のトーンアーム、RMA229が搭載されている。
ちなみにモノーラル時代の930のそれはRF229である。
930が登場したのが、1956年。モノーラル時代であり、内蔵イコライザーアンプは、管球式の139である。
シリアルナンバーでいえば3589番からステレオ仕様の930stになる。
これにはステレオ仕様の管球式の139stが搭載されている。

そしてシリアルナンバー10750番から、トランジスター式の155stとなり、
14725番電源回路が変更になり、17822番からトーンアームがEMT製929に変更となる。
ただ155stが登場したのが、いつなのかは正確には、まだ知らない。

ただ929が登場したのが1969年で、
155stの兄弟機153stとほぼ同じ回路構成のフォノイコライザーアンプを搭載した928(ベルトドライブ)は、
1968年に登場していることから、おそらく60年代なかばには930stに搭載されていただろう。

155stは、片チャンネルあたりトランジスター8石を使ったディスクリート構成で、入出力にトランスを備えている。
153stは、LM1303M、μA741C、μA748Cと3種のオペアンプを使い、
出力のみトランジスター4石からなるバッファーをもつ。
もちろん入出力にトランスをもつが、155stと同じかというとそうでもない。

出力トランスは1次側に巻き線を2つもち、そのうちの1つがNFB用に使われている。
電源も155stは+側のみだが、153stは正負2電源という違いもある。

回路図を見る限り、155stと153stの開発年代の隔たりは、2、3年とは思えない。
となると155stは、60年代前半のアンプなのかもしれない。
LNP2よりも、10年か、それ以上前のアンプということになる。

Date: 5月 20th, 2009
Cate: 930st, EMT, LNP2, Mark Levinson, 瀬川冬樹
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930stとLNP2(その1)

中野区白鷺のマンションに住まわれていたとき、
瀬川先生は、EMTの930StとマークレビンソンのLNP2を使われていた。
説明は不要だろうが、どちらにもフォノイコライザーアンプがある。
瀬川先生は、どちらのフォノイコライザーアンプを使われていたのか。

ステレオサウンド 43号では、
「ずいぶん誤解されているらしいので愛用者のひとりとしてぜひとも弁護したいが、
だいたいTSD15というのは、EMYのスタジオプレーヤー930または928stのパーツの一部、みたいな存在で、
本当は、プレーヤー内蔵のヘッドアンプを通したライン送りの音になったものを評価すべきものなのだ。」、
「TSDでさえ、勝手なアダプターを作って適当なアームやトランスと組み合わせて
かえって誤解をまき散らしているというのに、SMEと互換性を持たせたXSDなど作るものだから、
心ない人の非難をいっそう浴びる結果になってしまった。EMTに惚れ込んだ一人として、
こうした見当外れの誤解はとても残念だ。」と、
TSD15、XSD15のコメントに、それぞれ書かれている。

55号でのプレーヤーの試聴記でも、内蔵イコライザーアンプの155stを通さない使い方を、
「異例の使い方」「特殊な試聴」とも書かれている。

これらの記事を読むと、おそらく930stの内蔵イコライザーアンプを使われているんだろうと思える。
その一方で、LNP2のイコライザーアンプを使わないというのも、なんとももったいない、と思う。

それに155stの設計は古い。1970年代においてすら、最新のアンプとはいえない。
LNP2のほうが新しい。そう考えると、どっちだったのかと迷う。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その19・補足)

A740のXLR端子がバランス入力ではないわけだから、
コンシューマー用パワーアンプで、最初にバランス入力を装備したのは、マークレビンソンのML2Lだろう。

すくなくとも日本で販売されたアンプということに限れば、ML2Lで間違いないはず。
次は、ジェームズ・ボンジョルノ主宰のSUMOのThe PowerとThe Goldだろう。
ML2LはXLR端子、SUMOの2機種はフォーンジャックを採用していた。

SUMOのアンプは、バランス入力のインピーダンスは10kΩと一般的な値なのに、
アンバランス入力は1MΩと、100倍も高くなっている。
正しくいえば、バランス入力の10kΩは、片側だけの入力(+側だけ、−側だけ)だと、
その半分の5kΩだから、200倍高い値である。

マーク・レヴィンソンが、CelloのEncore Preampのライン入力を1MΩにしたのは、1989年だから、
ボンジョルノは9年前に高入力インピーダンスをとり入れていたわけだ。
そのことを謳うかそうでないかは、ふたりの性格の違いからきている、と私は思っている。

SUMOの前に設立したGASでのデビュー作、Ampzillaの入力インピーダンスは、
ごく初期のものは、記憶に間違いがなければ、7.5kΩだった。
1974年の、そのころのパワーアンプの入力インピーダンスは、50k〜100kΩだったから、
かなり低い値だったわけで、ペアとなるコントロールアンプのティアドラが、
8Ωのスピーカーを、3WまではA級動作で鳴らすことができるほどの、
小出力のパワーアンプ並のラインアンプだから、可能な値といえる。

それが6年後のSUMOでは、200倍ちかい1MΩに設定することが、
なんともボンジョルノらしいといえば、そう言えるだろう。

私がSUMOのThe Goldを使っていたころ、ボンジョルノの人柄について、
井上先生がいくつか話してくれた内容からすると、
そうとうにユニークな人であることは誰も否定できないほどだ。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その19・訂正)

(その19)で、ルボックスのパワーアンプA740にバランス入力が装備されていると書いてしまったが、
たまたまA740と、その元となったスチューダーのパワーアンプA68のサービスマニュアルが
PDFで入手できたので、いったいどこがどう違うのか見比べていたら、間違いだったことに気がついた。

A740にはRCAピンジャックにすぐ下にXLR端子が設けられている。
A68はプロ用ということもあって、XLR端子のみで、もちろんバランス入力。
だからA740もそのままバランス入力を備えているものと思い込んでしまっていた。
A740のXLR端子は、RCA入力に並列に接続されているだけのアンバランス入力である。

A740とA68の内部は、よく似ている。
A740には、A68にはないメーターが装備され、スピーカー切替スイッチもついてる。
短絡的に捉えるなら、そういった装備により、多少音は影響されるように思いがちだが、
瀬川先生は、A68よりもA740の音を高く評価されていた。
性能が向上している、といった書き方だったように記憶している。

だがいったい、どこがどう違うのだろうかと、ずっと知りたかったことがやっとわかった。
A740とA68は、パワーアンプ部と電源の回路は同じだ(細かい定数までは、まだ比較していない)。
ブロックダイアグラムをみると、どちらもパワーアンプの前段にプリアンプとフィルターをもっており、
ここが2機種の相違点である。

A68は、まずRFフィルターを通り(バランス構成で、コイルが直列に挿入されている)、
入力トランス、ゲイン14dBのプリアンプ、その後にハイカットフィルター、
そしてパワーアンプへと信号は渡されていく。

A740にはRFフィルターはなく、レベルコントロールを経て、
ゲイン7dBのプリアンプ(回路構成はA740と同じ、上下対称回路)、
その後のフィルターはハイカットとローカットの2段構成で、パワーアンプの回路へとつながっている。

プロ用、コンシューマー用と、使用状況に応じての信号処理の使い分けである。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その40)

瀬川先生が、病室で飲まれたホワイト&マッケイの話を、
当時オーデックスに勤められていたYさんから聞いたとき、
そして、そのことを「瀬川冬樹氏のこと(その16)」に書いたとき、
この水こそが、瀬川先生にとってのコントロールアンプなのではないか、と思っていた。

長い間寝ていた酒を起こす水の役割──、
レコードやテープに収められている(寝ている)音楽を、すくっと起こす役割を担っているのが、
コントロールアンプの存在意義のように感じはじめていた。

Date: 4月 27th, 2009
Cate: Mark Levinson, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その46)

瀬川先生が、ベストバイのマイベスト3に、マークレビンソンのML2Lを選ばれていないことについては、
「思い出した疑問」にも書いている。

ML2Lの音は、それまでのA級動作のアンプの音が、やわらかく素直で透明な音というイメージを覆してしまった。
それほどスピーカーとの結合が密になった感じで、全体的な音の形は、贅肉をまったく感じさせないスリムさで、
スピーカーに起因するユルさまでもタイトに締め上げているような、強烈な印象を持っている。

線が細く、スリムでタイト。なめからで透明であることを徹底して追求し、
音が下品にふくらむことを拒否したところは、そのまま瀬川先生の音の好みともいえるし、
4350や4343をML2Lを6台用意して、低域をブリッジ接続にしてバイアンプで鳴らした音が、まさにそうであろう。

なのにML2Lを選ばれていないのは、なぜなのか。

瀬川先生がML2Lを導入される前に使われていたパワーアンプは、SAEのMark2500である。
そのときのアナログプレーヤーは、EMTの930st。
どちらも低域の豊かさは、他の機種からはなかなか得られないよさであり、
ピラミッド型の、安定した音のバランスは、聴き手をくるみ込む。

ステレオサウンド 55号のアナログプレーヤーの試聴記事で、
瀬川先生は、930stの低音を「いくぶんしまり不足」と表現されている。
55号のマイベスト3に挙げられているパイオニア/エクスクルーシヴP3についても、
「ひとつひとつの音にほどよい肉付き感じられ、弾力的で、素晴らしく豊かな気分を与える」と、
930stとともに高く評価されている。

パワーアンプのマイベスト3は、ルボックスのA740、マイケルソン&オースチンのTVA1、
アキュフェーズのP400で、
ML2Lの、タイトで無駄な肉付きのない音は反対の、
エクスクルーシヴP3に通じる、美しい響きをもつモノを選ばれている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×十四 825Ω)

現行製品で、MC型カートリッジを、数kΩ以上の高い入力インピーダンスで受けられるモノのひとつに、
コード(CHORD)のフォノイコライザーアンプ、Symphonicがある。

Symphonicの入力インピーダンスは、アンバランス入力が33、100、270、4.7k、47kΩの5段階、
さらにバランス入力も備えており、こちらはアンバランス時の2倍、66、200、540、9.4k、94kΩとなる。
フォノ入力でバランスということは、MC型カートリッジ用ということであり、
94kΩは、現在市販されているアンプの中では、もっとも高い値だ。

ところでML7LのL3Aカードの入力インピーダンスは、825Ωという、中途半端な数字なのだろうか。
MC型カートリッジをハイインピーダンスで受けることは理に適っている。
ならば切りのいい数字で1kΩでもいいわけだし、さらに高い10kΩ、100kΩでもいいだろうし、
プリント基板上にDIPスイッチを設けて、インピーダンスを切り替えることもできたはず。
にも関わらず825Ωだけである。

マーク・レヴィンソンは、ある特定のカートリッジで、この値を選んだのだろうか……。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×十三 825Ω)

つまりMC型カートリッジをヘッドアンプで受ける場合、入力抵抗による減衰量を極力なくすためには、
カートリッジの内部インピーダンスに対し、数100倍から1000倍程度の入力インピーダンスということになる。

実は、このことは目新しいことではなく、かなり以前から指摘されていたことである。
1969年に出版された「レコードプレーヤ」(山本武夫氏、日本放送出版協会)には、
「ムービングコイル形カートリッジ使用上の注意」として、次のように書かれている。
     ※
ヘッドアンプを用いる場合には、カートリッジの電気インピーダンスにくらべてアンプの入力インピーダンスがかなり高く、カートリッジが無負荷状態で動作できるものが必要です。ヘッドアンプを使う場合には、インピーダンス関係より、カートリッジの出力電圧が大きくなった場合のひずみに注意すべきです。
     ※
いまから40年以上前、ML7Lが825Ωを採用する10年以上前に、
すでにMC型カートリッジは、かなり高いインピーダンスで受けるものだと、山本氏は指摘されていた。

入力抵抗でのロスを極力なくすだけでも、ヘッドアンプのSN比は向上する。
微小レベルの信号を扱うヘッドアンプで、何も入力のところで信号を減衰させていい道理はひとつもない。

そういえば、日本では、無線と実験の筆者である金田明彦氏が、やはりMC型カートリッジ、
金田氏の場合は、デンオンのDL103を、560kΩで受けられている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×十二 825Ω)

MM型カートリッジでは負荷抵抗を変化させても、全帯域のレベル、
つまり出力電圧は、ほとんど変化しない。

MC型カートリッジでは(DL103S)では、6dB近く出力が増えている。
6dBといえば、電圧比で2倍。つまり推奨負荷インピーダンスの1000倍程度の高い値で受けたとき、
カートリッジ側から見れば、ほぼ無負荷に近い状態では、出力電圧が増す。

正しく言えば、ロスがほぼ無くなり、その分、出力電圧が増したようなことになる。
DL103Sの出力電圧は、0.42mV。オルトフォンのSPU-A/Eは0.2mV、MC30は0.07mV。
いずれも1kHzの値である。

レコードは、RIAA録音カーブで周波数補正がなされているため、
30Hzでは−18.59dB、20Hzでは約20dBほどレベルが低下する。
−20dBは、10分の1だから、それぞれのカートリッジの出力電圧は、1kHzの値の10分の1にまでなってしまう。
MC30では0.007mVになってしまう計算だ。
さらにピアニッシモではさらに低い値となる。

MC型カートリッジの出力は、ひじょうにローレベルの信号にもかかわらず、
ヘッドアンプで、負荷抵抗をカートリッジのインピーダンスと同じ値に設定してしまうと、
さらに2分の1にまで低下してしまうことになる。

カートリッジはかならず内部インピーダンスをもつ。
つまりカートリッジ側からみれば、自身の内部インピーダンスが直列、
それに対しヘッドアンプの入力抵抗が並列に存在していることになり、
このふたつが抵抗減衰回路を形成してしまう。

カートリッジの内部インピーダンスとヘッドアンプの入力抵抗が同じ値だと、ちょうど6dBの減衰となる。
入力抵抗を上げていくと、この減衰量が減っていくことになる。
入力抵抗をなくした状態で、減衰量はほぼ0dBになる。
0dBにならないのは、アンプそのものの入力インピーダンス(FET入力だと数MΩ)が存在するため、
ごくごくわずかな減衰は生じるためである。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×十一 825Ω)

MM型カートリッジで負荷抵抗(アンプの入力インピーダンス)を高くしていくと、
高域のピークの周波数が高くなるとともに、ピークの山そのものも高くなることは、以前書いたとおりだ。

MC型カートリッジでも、この点に関しては同じであり、ヘッドアンプで受ける場合は、
入力インピーダンスを高くしていけば、高域にピークが生じる。
ヘッドアンプの入力インピーダンスを実質的に決める、アンプの入力に並行に接続されている抵抗は、
カートリッジの高域共振をダンプするためのものだと考えられているため、
カートリッジのインピーダンスに合わせるとされている。

実際に測定した場合、MC型カートリッジの周波数特性がどのように変化するのか。
手もとにデンオンのDL103Sの測定データが載っている本がある。
無線と実験別冊の「プレーヤー・システムとその活きた使い方」(井上敏也氏・監修)だ。

余談だが、この本は、岩崎先生がお読みになっていたものを、ご家族から譲り受けたもの。
私のところにある、数冊のステレオサウンド──
38、39、41、42号、コンポーネントステレオの世界 ’77、世界のオーディオ・サンスイも、
岩崎先生がお読みになっていたそのものである。

DL103Sのデータは、39Ω、33kΩ、100kΩ負荷時の周波数特性だ。
DL103Sの負荷インピーダンスは、40Ωと発表されている。
デンオンから同時期に発売されていたヘッドアンプ、HA500、HA1000の入力インピーダンスは、
どちらも100Ωで固定。ゲインのみ切替え可能。

実測データでは、39Ωでも高域にピークが生じている。
33k、100kという、推奨負荷インピーダンスからすると、ひじょうに高い値で受けた場合も、
やはりピークは発生している。
ピークが、39Ω負荷時よりも大きいかというと、ほとんど変わらない。
多少大きいかな、という程度の違いでしかない。

それよりも注目すべきことは、全帯域のレベルの変化である。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×十 825Ω)

H-Z1の音は、たしかによく出来た音だった。整然と音を出してくれるが、蛇口全開の音ではなかった。
勢いが前面にたつ印象ではなく、むしろひっそりと鳴る面が、
C-Z1、M-Z1と同じラインナップということが頭にあるため、
よけいにつよく感じられた、そんなふうに記憶している。

ヘッドアンプに抱いている、スタティックな印象が拭い去れているのかと、H-Z1には期待していた。
H-Z1も入力インピーダンスの切替えが可能で、10、47、100、470Ωの4段階。
試聴に使ったカートリッジは、オルトフォンのMC20MKIIだった。
ローインピーダンスだから、10Ωでも問題ないが、それでもインピーダンスを高いほうに切り替えていくと、
わずかとはいえ、スタティックな音から活気が加わってくる音に移り変っていく。
それにともない、音楽の表情のコントラストも、すこしずつ明瞭になっていく。

どんなに微細な音まで鳴らしてくれるアンプでも、表情のコントラストが乏しければ、
暗くスタティックな音になってしまう。
470Ωのときの音が個人的にはいちばん好ましかったし、
もっとインピーダンスをあげていけばどうなるのか、825Ωにしたら、どうなるのか、と思ってもいた。

マークレビンソンのML7Lは、H-Z1の1年前に登場している。
ML7Lの825Ωをのぞければ、470Ωも高い負荷抵抗といえる。

それにML7L以降、記憶をたどりすこし調べてみると、クレルのPAM3(1984年登場)も、
内部のDIPスイッチの切替えで、5Ωから1kΩまで9段階で設定できる。
825Ωが、設定値の中に含まれているのかは忘れてしまったが、
すくなくともML7Lの825Ωの採用が、ヘッドアンプの入力インピーダンスを、
それまでよりも高くしたといえるだろう。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×九 825Ω)

自作トランスの音の、私なりに一言で表せば、「ロスレスの音」。

もちろんロスがまったくないわけではない。そんなことは、十分わかっている。
周波数レンジ的にも、STA6600はどちらかといえばナローなだけに、
それだけですでにロスがあるといえるわけだが、
それでも、そんなふうに感じさせるだけの音の勢いがある。
フォルティシモで、音が頭打ちを感じさせずに、伸びていく。
ネガティヴな意味でのスタティックな印象は、かけらもなかった。

菅野先生が、パイオニアの無帰還アンプC-Z1、M-Z1に使われた「蛇口全開の音」、
この表現もぴったりくる。

C-Z1、M-Z1には、すこし遅れてH-Z1が登場した。
型番が示すようにヘッドアンプで、もちろん無帰還アンプで、
パイオニア独自のSLC(Super Linear Circuit)を採用していた。

SLCといっても、C-Z1、M-Z1がトランジスターによる構成に対し、H-Z1はFETによる。
H-Z1はひじょうに凝った内容のヘッドアンプで、
シャーシー内部には電波吸収材を採用、電源トランスにも使っていたと記憶している。
さらに電解コンデンサーの、通常は金属製の筒を、渦電流の発生を抑えるためガラス製にしたり、
プリント基板の銅箔も、通常数倍の厚みにした無酸素銅を採用、
といま同じことをやろうとしたら、いったいどのくらいの価格になるのだろう、と思いたくなるほど、
細部にわたって技術者のこだわりが実現されていた。

それだけのモノだけに、筐体もヘッドアンプとしてはかなり大型で、
価格も、当時のヘッドアンプとしてはもっとも高価だった(たしか20万円越えていた)。

H-Z1の音には、じつは期待していた。
H-Z1の音を聴いたのは、ステレオサウンドの試聴室で、C-Z1、M-Z1に通じる「蛇口全開の音」、
それを内部のこだわりのように、もっと洗練された音で鳴ってくれるのでは、とそんなふうに期待していた。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×八 825Ω)

お手製のトランスを持ち込んだころ、早瀬さんは、マイクロのSX8000IIに、トーンアームはSMEのSeries V、
カートリッジはオルトフォンの、たしかSPU-Goldだったと記憶している。

昇圧手段は、ヘッドアンプではなくトランスで、あえてブランド、型番は記さないが、
当時、かなり高価なモノで、それに見合うだけの評価も受けていた。
私も、すこし気になっていたトランスだった。

STA6600をベースにしているとはいえ、そこそこ、いい音で鳴ってくれるだろうな、とは予想していた。
自分で作ったモノを正しく評価するには、本音で語り合える友人のところで聴くと言うのもやってみたほうがいい。

重量も価格も、私の自作トランスに較べてずっと重く高い既製品を聴いた後での音出し。
自慢話をしたいわけではない。
STA6600は、早瀬さんも以前使っていたことがあり、その時の環境では鳴らしていないものの、
ある程度は、STA6600の音の輪郭は掴んでただろうから、鳴ってきた音に驚かれた。

私も、正直、すこし驚いていた。ここまで変わるとは !
伊藤先生の言葉を思い出していた。

自作トランスはそのまま早瀬さんのリスニングルームにいることになった。

後日、ステレオサウンドのMさんが来られたときに、何の説明もなしに聴かせたら、
「すごく驚いていましたよ」という話も、
それから井上先生の評価も、早瀬さんから聞いている。

トランスそのものには何の細工もしていない。
何度も書いているが、取りつけ方、配線、アースの処理、インピーダンス整合に気を使って、
組み上げたものだから、トランスの基本に立ち返ってもらえれば、
私がどんなことをやったのかは、すぐにお解りになると思う。特殊なことは何もやっていないから。

私が言いたいのは、トランスは使い方ひとつで、大きく音が変化する。
電源を必要としない、プリミティブな素子だけに、生き物と表現された伊藤先生の気持が、
このトランスをつくったことで、多少なりとも理解できたし、そのことを知っていただきたい。

トランスの、らしさを活かし、臭さをできるだけ抑えることはできたといえる。