Archive for category 40万の法則

Date: 1月 9th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その15)

HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場しているJBLのユニットは、
LE8T(30000円)、D123-3(32000円)、2115A(36000円)、
D130(45000円)、2145(65000円)の5機種で、
2145は30cmコーン型ウーファーと5cmコーン型トゥイーターの組合せによる同軸型ユニットで、
いわゆる純粋なシングルボイスコイルのフルレンジユニットはLE8T、D123-3、2115A、D130であり、
これらすべてセンターキャップにアルミドームを採用している(価格はいずれも1979年当時のもの)。

LE8Tは20cm口径の白いコーン紙、D123-3は30cm口径でコルゲーション入りのコーン紙、
2115Aは20cm口径で黒いコーン紙、D130は38cm口径。
2115AはLE8Tのプロフェッショナル・ヴァージョンと呼べるもので、
コーン紙の色こそ異るものの、磁気回路、フレームの形状、それにカタログ上のスペックのいくつかなど、
共通点がいくつもある中で、能率はLE8Tが89dB/W/mなのに対し2115Aは92dB/W/mと、3dB高くなっている。
この3dBの違いの理由はコーン紙の色、
つまりLE8Tのコーン氏に塗布されているダンピング材によるものといって間違いない。

LE8Tはこのことが表しているように、全体に適度にダンピングを効かしている。
このことはHIGH-TECHNIC SERIES 4に掲載されている周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率からも伺える。
周波数・指向特性もLE8Tのほうがあきらかにうねりが少ないし、
高調波歪率もLE8Tはかなり優秀なユニットといえる。
高調波歪率のグラフをみていると、基本的な設計が同じスピーカーユニットとは思えないほど、
LE8Tと2115Aは、その分布が大きく異っている。

2115AにもD130と同じように5kHzあたりにアルミドームの共振によるピークががある。
D123-3にもやはり、そのピークは見られる。
さらにこのピークとともに、第2次高調波歪が急激に増しているところも、D130と共通している。
ところがLE8Tこの高調波歪も見事に抑えられている。

LE8Tのこういう特徴は、試聴記にもはっきりと出ている。

Date: 1月 9th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その14)

スピーカーユニット、それもコーン型ユニットの測定はスピーカーユニットだけでは行なえない。
なんらかの平面バッフルもしくはエンクロージュアにとりつけての測定となる。

IECでは平面バッフルを推奨していた(1970年代のことで現在については調べていない)。
縦1650mm、横1350mmでそれぞれの中心線の交点から横に150mm、上に225mm移動したところを中心として、
スピーカーユニットを取りつけるように指定されている。

日本ではJIS箱と呼ばれている密閉型エンクロージュアが用いられる。
このJIS箱は厚さ20mmのベニア板を用い、縦1240mm、横940mm、奥行540mm、
内容積600リットルのかなり大型のものである。

ステレオサウンド別冊HIGH-TRCHNIC SERIES 4で、後者のJIS箱にて測定されている。
IEC標準バッフルにしても、JIS箱にしても、
測定上理想とされている無限大バッフルと比較すると、
バッフル効果の、低域の十分に低いところまで作用しない点、
エンクロージュアやバッフルが有限であるために、ディフラクション(回折)による影響で、
周波数(振幅)特性にわずかとはいえ乱れ(うねり)が生じる。

無限大バッフルに取りつけた状態の理想的な特性、
つまりフラットな特性と比べると、JIS箱では200Hzあたりにゆるやかな山ができ、
500Hzあたりにこんどはゆるやかで小さな谷がてきる。
この山と谷は、範囲が小さくなり振幅も小さくなり、周期も短くなっていく。

IEC標準バッフルでは100Hzあたりにゆるやかな山ができ、400Hzあたりにごくちいさな谷と、
JIS箱にくらべると周期がやや長いのは、バッフルの面積が大きいためであろう。

どんなに大きくても有限のバッフルなりエンクロージュアにとりつけるかぎりは、
特性にもバッフル、エンクロージュアの影響が多少とはいえ出てくることになる。

ゆえに実測データの読み方として、複数の実測データに共通して出てくる傾向は、
いま述べたことに関係している可能性が高い、ということになる。

Date: 1月 7th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その13)

D130は厳密にはJBLの出発点とは呼びにくい。
実質的にはD130が出発点ともいえるわけだが、事実としてはD101が先にあるのだから、
D130はJBLの特異点なのかもしれない。

そのD130の実測データは、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4に出ている。
無響室での周波数特性(0度、30度、60度の指向特性を併せて)と、
残響室でのピンクノイズとアナライザーによるトータルエネルギー・レスポンスがある。

このどちらの特性もお世辞にもワイドレンジとはいえない。
D130はアルミ製のセンターキャップの鳴りを利用しているため、
無響室での周波数特性では0度では1kHz以上ではそれ以下の帯域よりも数dB高い音圧となっている。
といってもそれほど高い周波数まで伸びているわけではなく、3kHzでディップがあり、その直後にピークがあり、
5kHz以上では急激にレスポンスが低下していく。
これは共振を利用して高域のレスポンスを伸ばしていることを表している。
周波数特性的には0度の特性よりも30度の特性のほうが、まだフラットと呼べるし、グラフの形も素直だ。

低域の特性も、38cm口径だがそれほど低いところまで伸びているわけではない。
100dBという高い音圧を実現しているのは200Hzあたりまでで、そこから下はゆるやかに減衰していく。
100Hzでは200Hzにくらべて約-4dB落ち、50Hzでの音圧は91dB程度になっている。
トータルエネルギー・レスポンスでも5kHz以上では急激にレスポンスが低下し、
フラットな帯域はごくわずかなことがわかる。

周波数特性的にはD130よりもずっと優秀なフルレンジユニットが、HIGH-TECHNIC SERIES 4には載っている。
HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場するフルレンジユニットの中には、
アルテックの604-8GやタンノイのHPDシリーズのように、
同軸型2ウェイ(ウーファーとトゥイーターの2ボイスコイル)のものも含まれている。
それらを除くと、ボイスコイルがひとつだけのフルレンジユニットとしてはD130は非常に高価もモノである。
HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場するボイスコイルひとつのユニットで最も高価なのは、
平面振動板の朋、SKW200の72000円であり、D130はそれに次ぐ45000円。このときLE8Tは30000円だった。

Date: 1月 7th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その12)

JBLのD130の息の長いスピーカーユニットだったから、
初期のD130と後期のD130とでは、
いくつかのこまかな変更が加えられ、音の変っていることは岩崎先生自身も語られている。
とはいえ、基本的な性格はおそらくずっと同じのはず。
ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4(1979年)で試聴対象となったD130は、
いわば後期モデルと呼んでもいいだけの時間が、D130の登場から経っているものの、
試聴記を読めば、D130はD130のままであることは伝わってくる。

同程度のコンディションの、製造時期が大きく異るD130を直接比較試聴したら、
おそらくこれが同じD130なのかという違いは聴きとれるのかもしれない。
でも、D130を他のメーカーのスピーカーユニット、もしくはスピーカーシステムと比較試聴してしまえば、
D130の個性は強烈なものであり、いかなるほかのスピーカーユニット、スピーカーシステムとは違うこと、
そして同じJBLの他のコーン型ユニットと比較しても、D130はD130であることはいうまでもない。

そのD130は何度か書いているようにランシングがJBLを興したときの最初のスピーカーユニットではない。
D101という、アルテックのウーファー、515のフルレンジ版といえるのが最初であり、
これに対するアルテックにクレームがあったからこそ、D130は生れている。

ということは、もしD101にアルテックのクレームがなかったら、
D130は登場してこなかったはず。
となれば、その後のJBLの歴史は、いまとはかなり異っていた可能性が大きい。
かりにそうなっていたら、つまりD130がこの世に存在してなかったら、
岩崎先生のオーディオ人生はどうなっていたのか、
いったいD130のかわり、どのスピーカーユニット、スピーカーシステムを選択されていたのか、
そしてスイングジャーナル1970年2月号のサンスイの広告で書かれた次の文章──、
この項の(その11)で引用した文章をもう一度引用しておく。
     *
アドリブを重視するジャズにおいては、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。
     *
この文章(表現)は生れてきただろうか──、そんなことを考えてしまう。

おそらくD101では、D130のようにコーヒーカップのスプーンのように音は立てない、はずだからだ。
そう考えたとき、ランシングのD101へのアルテックのクレームがD130を生み、
そのD130との出逢いが……、ここから先は書かなくてもいいはず。

Date: 8月 13th, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その11)

空気をビリビリと振るわせる。
ときには空気そのものをビリつかせる。

「オーディオ彷徨」とHIGH-TECHNIC SERIES 4を読んだ後、
私の裡にできあがったD130像が、そうだ。

なぜD130には、そんなことが可能だったのか。
空気をビリつかせ、コーヒーカップのスプーンが音を立てるのか。
正確なところはよくわからない。
ただ感覚的にいえば、D130から出てくる、というよりも打ち出される、といったほうがより的確な、
そういう音の出方、つまり一瞬一瞬に放出されるエネルギーの鋭さが、そうさせるのかもしれない。

D130の周波数特性は広くない。むしろ狭いユニットといえる。
D130よりも広帯域のフルレンジユニットは、他にある。
エネルギー量を周波数軸、時間軸それぞれに見た場合、D130同等、もしくはそれ以上もユニットもある。
だが、ただ一音、ただ一瞬の音、それに附随するエネルギーに対して、
D130がもっとも忠実なユニットなのかもしれない。
だからこそ、なのだと思っている。

そしてD130がそういうユニットだったからこそ、岩崎先生は惚れ込まれた。

スイングジャーナル1970年2月号のサンスイの広告の中で、こう書かれている。
     *
アドリブを重視するジャズにおいては、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。
     *
JBL・D130の本質を誰よりも深く捉え惚れ込んでいた岩崎先生だからこその表現だと思う。
こんな表現は、ジャズを他のスピーカーで聴いていたのでは出てこないのではなかろうか。
D130でジャズで聴かれていたからこその表現であり、
この表現そのものが、D130そのものといえる。

Date: 8月 13th, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その10)

私は、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4を読んだあと、
そう経たないうちに「オーディオ彷徨」を読んだことで、D130を誤解することなく受けとることができた。
もちろん、このときD130の音は聴いたことがなかったし、実物を見たこともなかった。

HIGH-TECHNIC SERIES 4の記事をだけを読んで(素直に読めばD130の凄さは伝わってくるけれども)、
一緒に掲載されている実測データを見て、D130の設計の古さを指摘して、
コーヒーカップのスプーンが音を立てたのは、歪の多さからだろう、と安易な判断を下す人がいておかしくない。

昨日書いたこの項の(その9)に坂野さんがコメントをくださった。
そこに「現在では欠陥品と呼ぶ人がいておかしくありません」とある。
たしかにそうだと思う。現在に限らず、HIGH-TECHNIC SERIES 4が出たころでも、
そう思う人がいてもおかしくない。

D130は優秀なスピーカーユニットではない、欠点も多々あるけれども、
欠陥スピーカーでは、断じてない。
むしろ私はいま現行製品のスピーカーシステムの中にこそ、欠陥スピーカーが隠れている、と感じている。
このことについて別項でふれているので、ここではこれ以上くわしくは書かないが、
第2次、第3次高調波歪率の多さにしても、
その測定条件をわかっていれば、必ずしも多いわけではないことは理解できるはずだ。

HIGH-TECHNIC SERIES 4での歪率はどのスピーカーユニットに対しても入力1Wを加えて測定している。
つまり測定対象スピーカーの音圧をすべて揃えて測定しているわけではない。
同じJBLのLE8Tも掲載されている。
LE8Tの歪率はパッと見ると、圧倒的にD130よりも優秀で低い。
けれどD130の出力音圧レベルは103dB/W/m、LE8Tは89dB/W/mしかない。14dBもの差がある。
いうまでもなくLE8TでD130の1W入力時と同じ音圧まであげれば、それだけ歪率は増える。
それがどの程度増えるかは設計にもよるため一概にいえないけれど、
単純にふたつのグラフを見較べて、
こっちのほうが歪率が低い、あっちは多すぎる、といえるものではないということだ。

D130と同じ音圧の高さを誇る604-8Gの歪率も、だからグラフ上では多くなっている。

Date: 8月 12th, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明
1 msg

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その9)

D130は、凄まじいユニットだと、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4を読んだときに、そう思った。
そしてHIGH-TECHNIC SERIES 4のあとに、私は「オーディオ彷徨」を読んだ。
「オーディオ彷徨」1977年暮に第一版が出ているが、私が手にして読んだのは翌年春以降に出た第二版だった。
「オーディオ彷徨」を読み進んでいくうちに、D130の印象はますます強くはっきりとしたものになってきた。

岩崎先生の文章を読みながら、こういうユニットだからこそ、コーヒーカップのスプーンが音が立てるのか、
とすっかり納得していた。

D130よりも出来のいい、優秀なスピーカーユニットはいくつもある。
けれど「凄まじい」と呼べるスピーカーユニットはD130以外にあるだろうか。

おそらくユニット単体としてだけみたとき、D130とD101では、後者のほうが優秀だろうと思う。
けれど、音を聴いていないから、515や604-8Gを聴いた印象からの想像でしかないが、
D101には、D130の凄まじさは微塵もなかったのではないだろうか。
どうしてもそんな気がしてしまう。

D130を生み出すにあたって、
ランシングはありとあらゆることをアルテック時代にやってきたことと正反対のことをやったうえで、
それは、しかし理論的に正しいことというよりも、ランシングの意地の結晶といえるはずだ。

素直な音の印象の515(それにD101)と正反対のことをやっている。
515は、アルテック時代にランシングがいい音を求めて、
優秀なユニットをつくりるためにやってきたことの正反対のことをあえてやるということ──、
このことがもつ意味、そして結果を考えれば、
D130は贔屓目に見ても、優秀なスピーカーユニットとは呼びにくい、どころか呼べない。

だからD130は人を選ぶし、その凄まじさゆえ強烈に人を惹きつける。

Date: 8月 12th, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その8)

D101では、コーヒーカップのスプーンは、音を立てただろうか。
おそらく立てない、と思う。

アルテックの604シリーズの原形はランシングの設計だし、
604のウーファーは、やはりランシング設計の515相当ともいわれている。
その604ではスプーンが音を立てなかったということは、
同じく515をベースにフルレンジ化したD101も、スプーンは音を立てない、とみている。

以前、山中先生が、
ウェスターン・エレクトリックの594を中心としたシステムのウーファーに使われていた
アルテックの515を探したことがあった。
山中先生からHiVi編集長のOさんのところへ話が来て、さらに私のところにOさんから指示があったわけだ。

いまでこそ初期の515といってもわりとすぐに話が通じるようになっているが、
当時はこの時代のスピーカーユニットを取り扱っている販売店に問い合わせても、
まず515と515Bの違いについて説明しなければならなかった。

それこそステレオサウンドに広告をだしている販売店に片っ端から電話をかけた。
そしてようやく515と515Bの違いについて説明しなくても、
515がどういうユニットなのかわかっている販売店にたどりつけた。
すぐ入荷できる、ということでさっそく編集部あてに送ってもらった。

届いた515は、私にとってはじめてみる515でもあったわけで、箱から取り出したその515は、
数十年前に製造されたものと思えないほど状態のいいモノだった。
それでHiViのOさんとふたりで、とにかくどんな音が出るんだろうということで、
トランジスターラジオのイヤフォン端子に515をつないだ。

このとき515から鳴ってきた音は、実に澄んでいた。
大型ウーファーからでる音ではなく、大型フルレンジから素直に音が細やかに出てくる感じで、
正直、515って、こんなにいいユニット(ウーファーではなくて)と思ったほどだった。

もしD130で同じことをしたら、音が出た瞬間に、
たとえ小音量ではあってもそのエネルギー感に驚くのかもしれない。

Date: 8月 10th, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その7)

凄まじいユニット、というのが、私のD130に対する第一印象だった。

HIGH-TECHNIC SERIES 4には37機種のフルレンジが登場している。
10cm口径から38cm口径まで、ダブルコーンもあれば同軸型も含まれている。
これらの中には、出力音圧レベル的にはD130に匹敵するユニットがある。
アルテックの604-8Gである。

カタログ発表値はD130が103dB/W/m、604-8Gが102dB/W/m。
HIGH-TECHNIC SERIES 4には実測データがグラフで載っていて、
これを比較すると、D130と604-8Gのどちらが能率が高いとはいえない。
さらに残響室内における能率(これも実測値)があって、
D130が104dB/W/m、604-8Gが105dB/W/mと、こちらは604のほうがほんのわずか高くなっている。
だから、どちらが能率が高いとは決められない。
どちらも高い変換効率をもっている、ということが言えるだけだ。

だが、アルテック604-8Gの試聴のところには、
D130を印象づけた「エネルギー感」という表現は、三氏の言葉の中には出てこない。
もちろん記事は編集部によってまとめられたものだから、
実際に発言されていても活字にはなっていない可能性はある。
だが三氏の発言を読むかぎり、おそらく「エネルギー感」が出ていたとしても、
D130のそれとは違うニュアンスで語られたように思える。

ここでも瀬川先生の発言を引用しよう。
     *
ジャズの場合には、この朗々とした鳴り方が気持よくパワーを上げてもやかましくならず、どこまでも音量が自然な感じで伸びてきて、楽器の音像のイメージを少しも変えない。そういう点ではやはり物すごいスピーカーだということを再認識しました。
     *
おそらく604-Gのときにも、D130と同じくらいの音量は出されていた、と思う。
なのにここではコーヒーカップのスプーンは音を立てていない。

Date: 8月 10th, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その6)

JBLのD130というフルレンジユニットとは、いったいどういうスピーカーユニットなのか。

JBLにD130という15インチ口径のフルレンジユニットがあるということは早い時期から知っていた。
それだけ有名なユニットであったし、JBLの代名詞的なユニットでもあったわけだが、
じつのところ、さしたる興味はなかった。
当時は、まだオーディオに関心をもち始めたばかり若造ということもあって、
D130はジャズ専用のユニットだから、私には関係ないや、と思っていた。

1979年にステレオサウンド別冊としてHIGH-TECHNIC SERIES 4が出た。
フルレンジユニットだけ一冊だった。

ここに当然のことながらD130は登場する。
試聴は岡俊雄、菅野沖彦、瀬川冬樹の三氏によって、
1辺2.1mの米松合板による平面バッフルにとりつけられて行われている。
フルレンジの比較試聴としては、日本で行われたものとしてここまで規模の大きいものはないと思う。
おそらく世界でも例がないのではなかろうか。

この試聴で使われた平面バッフルとフルレンジの音は、
当時西新宿にあったサンスイのショールームでも披露されているので実際に聴かれた方もおいでだろう。
このときほと東京に住んでいる人をうらやましく思ったことはない。

HIGH-TECHNIC SERIESでのD130の評価はどうだったのか。
岡先生、菅野先生とも、エネルギー感のものすごさについて語られている。
瀬川先生は、そのエネルギー感の凄さを、もっと具体的に語られている。
引用してみよう。
     *
ジャズになって、とにかくパワーの出るスピーカーという定評があったものですから、どんどん音量を上げていったのです。すると、目の前のコーヒーカップのスプーンがカチャカチャ音を立て始め、それでもまだ上げていったらあるフレーズで一瞬われわれの鼓膜が何か異様な音を立てたんです。それで怖くなって音量を絞ったんですけど、こんな体験はこのスピーカー以外にはあまりしたことがありませんね。菅野さんもいわれたように、エネルギー感が出るという点では希有なスピーカーだろうと思います。
     *
このときのD130と同じ音圧を出せるスピーカーは他にもある。
でもこのときのD130に匹敵するエネルギー感を出せるスピーカーはあるのだろうか。

Date: 8月 10th, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その5)

D101は資料によると”General Purpose”と謳われている。
PAとして使うことも考慮されているフルレンジユニットであった。

よくランシングがアルテックを離れたのは
劇場用の武骨なスピーカーではなく、家庭用の優秀な、
そして家庭用としてふさわしい仕上げのスピーカーシステムをつくりたかったため、と以前は言われていた。
その後、わかってきたのは最初からアルテックとの契約は5年間だったこと。
だから契約期間が終了しての独立であったわけだ。

アルテックのとの契約の詳細までは知らないから、
ランシングがアルテックに残りたければ残れたのか、それとも残れなかったのかははっきりとしない。
ただアルテックから離れて最初につくったユニットがD101であり、
ランシングがアルテック在籍時に手がけた515のフルレンジ的性格をもち、
写真でみるかぎり515とそっくりであったこと、そしてGeneral Purposeだったことから判断すると、
必ずしも家庭用の美しいスピーカーをつくりたかった、ということには疑問がある。

D101ではなく最初のスピーカーユニットがD130であったなら、
その逸話にも素直に頷ける。けれどD101がD130の前に存在している。
ランシングは自分が納得できるスピーカーを、
自分の手で、自分の名をブランドにした会社でつくりたかったのではないのか。

だからこそ、D101とD130を聴いてみたい、と思うし、
もしD101に対してのアルテック側からのクレームがなく、そのままD101をつくり続け、
このユニットをベースにしてユニット開発を進めていっていたら、おそらくD130は誕生しなかった、ともいえよう。

Date: 8月 3rd, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その4)

一方のJBL(そしてランシング)はどうだろうか。

ランシングは1902年1月14日にイリノイ州に生れている。
1925年、彼はユタ州ソルトレーク・シティに移っている。西へ向ったわけだ。
ここでコーン型スピーカーの実験・自作をおこない、この年の秋、ケネス・デッカーと出逢っている。
1927年、さらに西、ロサンジェルスにデッカーとともに移り、サンタバーバラに仕事場を借り、
3月9日、Lansing Manufacturing Company はカリフォルニア州法人として登録される。
この直前に彼は、ジェームズ・マーティニから、ジェームズ・バロー・ランシングへと法的にも改名している。

このあとのことについて詳しくしりたい方は、
2006年秋にステレオサウンドから発行された「JBL 60th Anniversary」を参照していただきたい。
この本の価値は、ドナルド・マクリッチーとスティーヴ・シェル、ふたりによる「JBLの歴史と遺産」、
それに年表にこそある、といってもいい。
それに較べると、前半のアーノルド・ウォルフ氏へのインタヴュー記事は、
読みごたえということで(とくに期待していただけに)がっかりした。
同じ本の中でカラーページを使った前半と、
そうではない後半でこれほど密度の違っているのもめずらしい、といえよう。

1939年,飛行機事故で共同経営者のデッカーを失ったこともあって、
1941年、ランシング・マニファクチェアリングは、アルテック・サーヴィスに買収され、
Altec Lansing(アルテック・ランシング)社が誕生することとなる。
ランシングは技術担当副社長に就任。
そして契約の5年間をおえたランシングは、1946年にアルテック・ランシング社からはなれ、
ふたたびロサンジェルスにもどり、サウススプリングに会社を設立する。
これが、JBLの始まり、となるわけだ。
(ひとつ前に書いているように、1943年にはアルテックもハリウッドに移転している。)

とにかく、ランシングは、つねに西に向っていることがわかる。

Date: 8月 1st, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その3)

D101とD130の違いは、写真をみるだけでもまだいくつかある。
もし実物を比較できたら、もっといくつもの違いに気がつくことだろう。
何も知らず、D101とD130を見せられたら、同じ会社がつくったスピーカーユニットとは思えないかもしれない。

D101が正相ユニットだとしたら、D130とはずいぶん異る音を表現していた、と推察できる。
アルテックとJBLは、アメリカ西海岸を代表する音といわれてきた。
けれど、この表現は正しいのだろうか、と思う。
たしかに東海岸のスピーカーメーカーの共通する音の傾向と、アルテックとJBLとでは、
このふたつのブランドのあいだの違いは存在するものの、西海岸の音とひとくくりにしたくなるところはある。
けれど……、といいたい。
アルテックは、もともとウェスターン・エレクトリックの流れをくむ会社であることは知られている。
アルテックの源流となったウェスターンエレクトリックは、ニューヨークに本社を置いていた。
アルテックの本社も最初のうちはニューヨークだった。
あえて述べることでもないけれど、ニューヨークは東海岸に位置する。

アルテックが西海岸のハリウッドに移転したのは、1943年のことだ。
1950年にカリフォルニア州ビヴァリーヒルズにまた移転、
アナハイムへの工場建設が1956年、移転が1957年となっている。
1974年にはオクラホマにエンクロージュア工場を建設している。

アルテックの歴史の大半は西海岸にあったとはいうものの、もともとは東海岸のメーカーである。
つまりわれわれがアメリカ西海岸の音と呼んでいる音は、アメリカ東海岸のトーキーから派生した音であり、
アメリカ東海岸の音は、最初から家庭用として生れてきた音なのだ。

Date: 8月 1st, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その2)

タイムマシーンが世の中に存在するのであれば、
オーディオに関することで幾つか、その時代に遡って確かめたいことがいくつもある。
そのひとつが、JBLのD101とD130の音を聴いてみることである。

D101はすでに書いてように、アルテックの同口径のウーファーをフルレンジにつくり直したように見える。
古ぼけた写真でみるかぎり、センターのアルミドーム以外にはっきりとした違いは見つけられない。

だから、アルテックからのクレームがきたのではないだろうか。
このへんのことはいまとなっては正確なことは誰も知りようがないことだろうが、
ただランシングに対する、いわば嫌がらせだけでクレームをつけてきたようには思えない。
ここまで自社のウーファーとそっくりな──それがフルレンジ型とはいえ──ユニットをつくられ売られたら、
まして自社で、そのユニットの開発に携わった者がやっているとなると、
なおさらの、アルテック側の感情、それに行動として当然のことといえよう。
しかもランシングは、ICONIC(アイコニック)というアルテックの商標も使っている。

だからランシングは、D130では、D101と実に正反対をやってユニットをつくりあげた。
まずコーンの頂角が異る。アルテック515の頂角は深い。D101も写真で見ると同じように深い。
それにストレート・コーンである。
D130の頂角は、この時代のユニットのしては驚くほど浅い。

コーンの性質上、まったく同じ紙を使用していたら、頂角を深くした方が剛性的には有利だ。
D130ほど頂角が浅くなってしまうと、コーン紙そのものを新たにつくらなければならない。
それにD130のコーン紙はわずかにカーヴしている。
このことと関係しているのか、ボイスコイル径も3インチから4インチにアップしている。
フレームも変更されている。
アルテック515とD101では、フレームの脚と呼ぶ、コーン紙に沿って延びる部分が4本に対し、
D130では8本に増え、この部分に補強のためにいれている凸型のリブも、
アルテック515、JBLのD101ではコーンの反対側、つまりユニットの裏側から目で確かめられるのに対し、
D130ではコーン側、つまり裏側を覗き込まないと視覚的には確認できない。

これは写真では確認できないことだし、なぜかD101をとりあげている雑誌でも触れられていないので、
断言はできないけれど、おそらくD101は正相ユニットではないだろうか。
JBLのユニットが逆相なのはよく知られていることだが、
それはD101からではなくD130から始まったことではないのだろうか。

Date: 7月 31st, 2011
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その1)

ブランド名としてのJBLときいて、思い浮べるモノは人によって異る。
現在のフラッグシップのDD66000をあげる人もいるだろうし、
1970年代のスタジオモニター、そのなかでも4343をあげる人、
オリンパス、ハークネス、パラゴン、ハーツフィールドといった、
コンシューマー用スピーカーシステムを代表するこれらをあげる人、
最初に手にしたJBLのスピーカー、ブックシェルフ型の4311だったり、20cm口径のLE8Tだったり、
ほかにもランサー101、075、375、537-500など、いくつもあるはず。

けれどJBLといっても、ブランドのJBLではなく、James Bullough Lansing ということになると、
多くの人が共通してあげるモノは、やはりD130ではないだろうか。
私だって、そうだ。James Bullough Lansing = D130 のイメージがある。
D130を自分で鳴らしたことはない。実のところ欲しい、と思ったこともなかった。
そんな私でも、James Bullough Lansing = D130 なのである。

D130は、James Bullough Lansing がJBLを興したときの最初のユニットではない。
最初に彼がつくったのは、
アルテックの515のセンターキャップをアルミドームにした、といえるD101フルレンジユニットである。
このユニットに対してのアルテックからのクレームにより、
James Bullough Lansing はD101と、細部に至るまで正反対ともいえるD130をつくりあげる。
そしてここからJBLの歴史がはじまっていく。

D130はJBLの原点ではあっても、いまこのユニットを鳴らすとなると、意外に使いにくい面もある。
まず15インチ口径という大きさがある。
D130は高能率ユニットとしてつくられている。JBLはその高感度ぶりを、0.00008Wで動作する、とうたっていた。
カタログに発表されている値は、103dB/W/mとなっている。
これだけ高能率だと、マルチウェイにしようとすれば、中高域には必然的にホーン型ユニットを持ってくるしかない。
もっともLCネットワークでなく、マルチアンプドライヴであれば、低能率のトゥイーターも使えるが……。
当然、このようなユニットは口径は大きくても低域を広くカヴァーすることはできない。
さらに振動板中央のアルミドームの存在も、いまとなっては、ときとしてやっかいな存在となることもある。

これ以上、細かいことをあれこれ書きはしないが、D130をベースにしてマルチウェイにしていくというのは、
思っている以上に大変なこととなるはずだ。
D130の音を活かしながら、ということになれば、D130のウーファー販である130Aを使った方がうまくいくだろう。