Archive for category 1年の終りに……

Date: 12月 23rd, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その16)

今年きいたディスク(配信も含めて)で、
いちばん印象深かったのは何か。
それも新譜について書こうとしたのだが、すぐには何も浮ばなかった。

新譜は買って聴いている。
今年は、別項で書いているように落穂拾い的なディスクの買い方をしてきた。
なので新譜のCDはそれほど買っていないとはいえ、まったく買っていないわけではない。

なのに、浮んでこない。
結局浮んできたのは、カザルスのベートーヴェンとモーツァルトの交響曲だった。
新譜でもなんでもない。
ずいぶん前の録音だし、これまで数えきれないほど聴いてきた。

特にベートーヴェンの七番は、聴いている。
そのカザルスのベートーヴェンとモーツァルトを、今年は無性に聴きたくなったから、
夏以降、何度かくり返し聴いてきた。

11月のaudio wednesdayでは、カザルスのモーツァルトをかけた。
12月のaudio wednesdayでは、カザルスのベートーヴェンをかけた。

どちらもコーネッタで聴いた。
カザルスのモーツァルトとベートーヴェン、
タンノイで聴いたのは今回が初めてだった。

Date: 12月 21st, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その15)

2020年で、いちばんのこととなると、やはりタンノイのコーネッタである。
「五味オーディオ教室」から四十四年目に、やっとタンノイである。

タンノイを自分のシステムとして鳴らす機会が、まったくなかったわけではないが、
これといった理由はないけれど、どこかタンノイを遠ざけていた。

憧れのスピーカーシステムとして、タンノイのオートグラフは、
私のなかでは、別格中の別格である。

憧れのスピーカーとしても、JBLの4343とオートグラフとでは、同じには語れない。
もうこのままタンノイを自分のシステムとして鳴らすことはないだろう、と思い始めていた。

タンノイの現在のラインナップに、欲しいと思える製品がないことも関係している。
いまのタンノイの方針からいっても、将来、
どうしても欲しいと思うようになるモデルが登場するとは考えにくい。

だからといって、オートグラフの中古をさがそうとは、まったく考えていなかった。
タンノイは憧れのままなのか。

そんなふうにも思い始めたころに、ヤフオク!にコーネッタが表示された。
コーネッタを検索していたわけでもないのに、唐突に表示された。

別項で書いているので省略するが、思わぬ安価で落札できた。
7月から12月までの六回、
喫茶茶会記でのaudio wednesdayは、コーネッタを鳴らした。

毎回五時間から六時間ほど鳴らしていた。
それが六回だから、三十時間ちょっと鳴らしていたことになる。
半年で、これだけなのだから、短い。

でも、7月に鳴らした音と12月に鳴らした音は、変化も大きい。
毎日鳴らすようになれば、もっと変化していくことだろう。

Date: 12月 17th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その14)

シルヴェスター・スタローン主演の映画で、「デモリションマン」というのがある。
日本では1994年に公開されている。
スタローン演じる主人公のスパルタンは、1996年に冷凍睡眠にされて、
2032年に解凍される。

映画公開時のほぼ四十年後を描いている。
けっこう奇妙な未来像だった。

中でも笑ったのが、男女の営みで、
どちらも裸になることなく着衣のまま、ヘッドギアを装着して、
相手にいっさい触れることなく、行為は終ってしまう。

かなり以前に観た映画だから、細部は違っているかもしれないが、
そんな感じで、いくらなんでもそんな時代が来るわけないだろう、と思って観ていた。

けれど2020年、新型コロナの登場で、
もしかするとそんな笑い話のような未来が現実となるのかもしれない、と、
「デモリションマン」のことを思い出した。

4月のaudio wednesdayは、コロナ禍で中止にした。
5月のaudio wednesdayは、緊急事態宣言中だったこともあったし、
告知もそれほどしなかったこともあって、誰も来られなかった。

喫茶茶会記の店主の福地さんと二人だけのaudio wednesdayでもあった。

そんなことは起らない、と思っているようなことが、
これから起っていくのかもしれない。

Date: 12月 10th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その13)

iPhoneで音楽を聴いていて、ふとiPod Hifiを思い出したことがある。

2006年にAppleからiPod HiFiが出た。
iPodをカセットテープかわりにしたラジカセともいえるiPod HiFiの発表時に、
ジョブズはオーディオマニアだったことを語っている。
そして、それまで使ってきたオーディオ機器を、iPod HiFiに置き換えた、ともいっていた。

ジョブズが1984年当時に使っていたシステムはわかっている。
確かにオーディオマニアといえるシステムで、ジョブズは聴いていた。

2006年までのあいだにシステムも変ってきていたことだろう。
1990年代なかばだったと記憶しているが、
スピーカーシステムはマーティン・ローガン、アンプはスペクトラムというのを、
何かで読んだ記憶がある。

コンデンサー型スピーカーが気に入っていたのだろうか。

とにかくそれらのシステムを、iPod HiFiに置き換えてしまった。
俄には信じられなかった。

それから十年以上が過ぎて、ジョブズも亡くなって、
いまiPhoneをシステムに接いで音楽を聴くことが増えた。

ジョブズと同じ心境になれた、とはいわない。
でも、なんとなくわかってきそうな気がしてくる感じがないわけではない。

Date: 12月 10th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その12)

知人がインターナショナルオーディオショウに感じていた不満は、
これから先は、かなり解消されていくのかもしれない。

すでにインターネットで積極的に動画を公開しているブランドもある。
そこはこれまで以上に積極的に活用していくだろうし、
これまで消極的だったブランドも、考え直しているところだろう。

いまはまだ自動翻訳の精度に満足できないが、
コロナ禍は、もしかすると自動翻訳の精度を高めていくきっかけになるかもしれない。

そうなったら、オーディオ雑誌のインタヴュー記事のあり方も変っていかざるをえない。
(その11)で触れていることと同じくらいのレベルでの問いかけが、
インタヴュアーに求められることに、必然的になる。

オーディオマニア(ユーザー、せしくはそのブランドに関心をもっている人)が、
ブランドの開発者やデザイナーに直接問いかけることも、もう不可能ではない。
そのブランドにとって、有益なことであれば、
それらが動画で配信公開されていくことだろう。

しかも、そう遠くないうちに自動翻訳がついての公開となるであろう。

Date: 12月 10th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その11)

今年はオーディオショウの大半が中止になった。
だから、一方でインターネットの活用が、ようやく活発になりはじめてきたようにも感じられる。

七、八年前だったか、ある知人がインターナショナルオーディオショウの感想として、
「どうして輸入元は、せっかく呼んだメーカーの人たちに話をさせないんですか」
といわれたことがある。

その人にとってインターナショナルオーディオショウは、
各ブースの音を聴くこと以上に、
海外ブランドの人たちの話を聞くのが主な目的であり、楽しみであった。

その知人は、
「つまんないオーディオ評論家の話よりもメーカーの人に話させるべきなのに」
と少し怒りを滲ませてもいた。

インターナショナルオーディオショウには、海外メーカーのいろんな人が来日する。
その人たちへのインタヴュー記事が、オーディオ雑誌に載ることもある。
すべてを読んでいるわけではないが、
たいていはものたりなさを感じてしまう。

もっと突っ込んだ話をしなかったのか、と思うこともあるし、
たったこれだけ? と記事の文量の少なさにがっかりすることもある。

ページの関係もあることはわかっていても、
せっかくインタヴューしたのであれば、
読み応えのある記事がつくれるはずなのに──、とは私も感じていたことだ。

三年前だったか、あるブースでは、そのメーカーのエンジニアが来場者の質問に答えていた。
質問していた人は、国内メーカーのエンジニアのようだった。
輸入元の通訳を介さずに英語で直接の質問だった。

技術的に突っ込んだ内容ということもあって、
輸入元のスタッフは完全に訳しきれていない感じだった。

私をふくめて、英語に堪能でない人は、その内容の半分も理解できていないだろう。
それでも興味深い話が聞けた。

それはオーディオ雑誌の記事には載らないことでもある。
こういう話がきけることがあるから、知人がいっていることには素直に頷ける。

Date: 12月 9th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その10)

昨年の「2019年をふりかえって(その1)」に、こんなことを書いている。
     *
あとどれだけ続けるのか(というか続くのか)は、
私自身にもわからない。

毎月やっていて、誰も来なくなったら終りにする。
一人でも来てくれるのであれば、続ける。
決めているのは、それだけである。

去年も書いているが、
来年もいまごろも、また同じことをきっと書いているだろう。
     *
一年前は、audio wednesdayがずっと続いていくものだ、と思っていた。
いつか終りが来るだろうけれど、それはまだずっと先とおもっていたわけだ。

その終りの年に、コーネッタを鳴らせたのは、ほんとうに良かった、とおもっている。

Date: 12月 9th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その9)

今年は、五味先生が亡くなられて四十年である。

「五味オーディオ教室」との出逢いがなくてもオーディオマニアにはなっていただろう。
でも、ずいぶん違うオーディオマニアになっていたかもしれない。

オーディオをやってきたことで知り合えた人たちがいる。
「五味オーディオ教室」と出逢ってなければ、
その人たちと知り合えなかったかもしれない。

Date: 12月 8th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その8)

もうじきステレオサウンドの冬号が書店に並ぶ。
特集はステレオサウンド・グランプリとベストバイである。

冬号が出る前に、今年登場した新製品で気になっているモノを挙げようかと考えた。
ステレオサウンド冬号の特集をみれば、
これもあったな、とか、これはよさそうだな、とは誰も思うだろうが、
冬号を目にすることなく、
つまり今年一年のオーディオ雑誌すべてを見ることなく、
今年一年をふり返って印象に残っている製品が、私にはあっただろうか。

今年はオーディオショウがなかったこともあって、
オーディオ雑誌を買わなくなってひさしい私は、
いくつかの新製品はすぐに思い出せるのが、
その思い出した製品が印象に残っているわけでもない。

今年はオーディオマニアの友人と会うことが、かなり少なかった。
ほとんど会っていない、といえる。

会えば、個々の製品について話すこともある。
それが今年はなかったことも、何があった(出てきた)のか、
ほとんど思い出せないことに関係しているのかもしれない。

なんとか一つ挙げるならば、KEFのLS50 Wireless IIである。
アンプ非搭載のLS50 Metaのほうが気になる、という人のほうが多いのかもしれないが、
私はこのスピーカーシステムに関しては、
アンプとD/Aコンバーターを搭載したLS50 Wireless IIの方に興味がある。

MQA対応でなければ、私もLS50 Metaだったろうが、そうではない。
それにTIDALも始めたいまとなっては、LS50 Metaよりも断然LS50 Wireless IIである。

Date: 12月 6th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その7)

ワディアから170 iTransportが登場したころ、あるオーディオ雑誌の編集長が、
「自分が編集長でいるあいだは、絶対にiPodを誌面に登場させない」──、
そう息巻いていた、というウワサをきいたことがある。

そういう人がいるのか、と思ってきいていた。
誰なのかもきいて知っているが、名前を出すこともなかろう。

一人のオーディオマニアとして、
自分のシステムにはiPodは絶対に導入しない、というのは、
その人の拘りとしてあってもいいと思う。
それはご自由に、である。

オーディオ評論家として、絶対にiPodをオーディオ機器としては認めない、も、
その人の拘りとしてあってもいいだろう。

でも、オーディオ雑誌の編集長としては、どうだろうか。
しかも外部にもれるように宣言する、というのもどうだろうか。

オーディオマニアとしての拘りを、オーディオ雑誌の編集長としての拘りとすることは、
読み手へのバイアスなのではないだろうか。

誌面で、iPodはオーディオ機器ではない、と宣言しているわけではないから、
あからさまなバイアスを読み手にかけているわけではない。
けれど宣言していないからこそ、隠れたバイアスともいえる。

拘りそのものが、バイアスである。

2020年は、コロナ禍によって、さまざまな変化が生じてきている。
オーディオの世界もそうであり、
バイアスから解放される方向へと舵を切る人、
バイアスをより深くかける方向へと突き進む人、
そんな流れも出てきているような気がしないでもない。

いまのところはまだはっきりとはいえない。
あと五年、十年経てば、より鮮明な違いとなって現れてくることを期待したい。

Date: 12月 5th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その6)

iPod、iPhoneを、きちんとしたオーディオシステムに接ぐことに、
特に抵抗感はなかった。
この一年、iPhoneで音楽を聴く時間が多くなって、そのことを再確認したともいえる。

とはいえ、iPhoneで聴くこと、
もっといえばパッケージメディア以外で音楽を聴くことに抵抗感、
そこまでいかなくとも躊躇している人もいるはずだ。

儀式を重視する人は、特にそうであろう。
おもむろにジャケットからLPを取り出して、
ヒゲをつけないように慎重にターンテープルの上におく。
盤面をクリーニングして、慎重にカートリッジを降ろす。
そしてボリュウムをあげてゆく──。

こういう一連の行動があってこそ、音楽を聴くという気構えが持てる人もいる。
それにいい音と利便性は両立しない、と主張する人もいる。

それ以外の理由で、パッケージメディアに拘る人はいるだろう。
でも、そういう人でも、今年はコロナ禍でオーディオショウのほとんどが中止になった。
そのかわりというわけではないが、
YouTubeでプレゼンテーションを行うところが、かなり出てきた。

オーディオ協会もそうだし、オーディオ店もやっている。
これまで個人で、自分のシステムの音をYouTubeで公開している人はけっこういたが、
それが今年はオーディオ関係者に広がってきている。

そうなると、これまで、こういうYouTubeの動画を見てこなかった人、
関心を持たなかった人も、ちょっとたけ見てみようかな、と思うようになるかもしれない。
たぶんいるはずだ。

どのくらいいるのかまでは調べようがないけれど、
YouTubeを通じて、オーディオ機器の音を聴くことに関心を持ち始めた人は、
昨年までよりも増えていよう。

関心をもっただけの人もいるだろうし、
関心をもって実際に聴いてみた人もいるだろう。
今年になってはじめて聴いた人のなかには、
ストリーミングで音楽を聴くことに抵抗感、もしくは避けてきた人もいるだろう。

でも実際に聴いてみることで、そういう抵抗感が薄れてきた人もいるのではないだろうか。
コロナ禍によって、TIDAL、mora qualitas、Amazon Music HDを試してみよう、
e-onkyoも試してみよう、という人が、少ないかもしれないが現れてきているに違いない──、
そう期待している。

Date: 12月 4th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その5)

iPhoneを、
自分のシステム、喫茶茶会記のシステムに接いで音楽を聴いている。

2008年にワディアから170 iTransportが登場した。
iPodの出力からデジタル信号を取り出して、SPDIFに変換するという機器だった。
つまりD/Dコンバーターである。

続いてゴールドムンドも同種の製品を発表した。
けれど、こちらはなぜか製品化されずに終ってしまった。
ダメになった理由は、はっきりとしたことは誰も知らないから、
いくつかのウワサが飛び交っていた。

どれがほんとうなのかはわからない。
そんなことはどうでもいいわけで、
同時期にワディアとゴールドムンドが、iPodをオーディオ機器として捉えていた事実だ。

オーディオマニアの知人も、このころ、iPodを複数台購入していた。
クラシック用、ジャズ用、ロック・ポップス用といったふうに使い分けるためである。

私はiPodと170 iTransportの実力がどのくらいなのか、聴く機会はなかった。
でも知人からは、興奮気味の電話がかかってきていた。
その後、170 iTransportは171へとヴァージョンアップしている。

私も興味はもっていた。ただD/Aコンバーターももっていなかったし、
デジタル出力が取り出せる世代のiPodも所有していなかった。
でも、いつかはやってみよう、と思っていたから、
七年くらい前だったか、170 iTransportを中古で手に入れていた。

でもD/Aコンバーターがなかったので、試すことはなかった。

そんなことがあったから、Matrix AudioのX-SPDIF2を眺めていると、
形状が170 iTransportに近いな、と思うし、
170 iTransportのように上部にiPhoneを挿し込めるようになっていればなぁ、とも思う。

Appleのライセンスの関係もあるだろうから、たぶん無理なのだろうけども。

iPhoneをトランスポートとして音楽を聴いていて、そんなことを思い出す一年でもあった。

Date: 11月 25th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その4)

今年はコロナ禍によって、オーディオショウのほとんどが中止になった。
中止が発表になった日に、twitterで検索してみると、
中止で悲しい、とか、来年に期待したい、とか、そういったツイートが表示された。

どのくらいの人が、オーディオショウの中止について、
なにか呟いているのかが気になって、数日、検索していた。

中止で悲しい、とか、来年に期待したい、と呟いていた人が、
続けて、なにかを呟いているのかと思えば、案外そうではなかった。
私が見た範囲では、ほとんどの人が、最初の呟きだけで、
その後は、まったく違うことを呟いていた。

そうだそうだ、twitterは、そういう呟きを書き留めておく場であるんだ、ということを、
再確認した一年だったような気がしている。

twitterがなかったころは、呟きは、呟いた本人でさえ、
どこかに書き留めてたりはしていなかったはずだ。
それが、いまではまったく違ってきている。

けっこうな数の人が、自身の呟きを書き留めるだけでなく、
不特定多数の人に向けて公開している。

日本では2011年3月11日から、twitterの存在感が急に増した。
そのころのツイートと、いまのツイートは、傾向が変ってきているようにも感じるのは、
この約十年間におけるスマートフォンの普及が関係しているのだろう。

パソコンからのツイートとスマートフォンからのツイート。
違ってこよう。

私も、あのころはMacからツイートしていた。
いまではほとんどツイートしなくなったが、たまのツイートはiPhoneからである。

スマートフォンは、パソコン以上にパーソナルコンピューターであるわけだ。
そんなiPhoneで、今年は多くの音楽を個人的に聴いてきたし、
audio wednesdayでは鳴らしてきた。

Date: 11月 15th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その3)

大塚久美子氏の経営手腕については、
かなりの人がさまざまなことを書いている。

すべてを読んでいるわけではない。
検索してまで、すべてを読むようなことはしていない。

目に入ってきた記事だけを読んできたわけだが、
それらのなかには、大塚久美子氏が家具が好きではないことに触れていた記事は一本もなかった。

そういうことは、経営について記事を書く人にとってはどうでもいいことなのだろうか。

私は経営の専門家ではないから、大塚久美子氏が家具が好きではないことが気になっていた。
すべての会社のトップが、その会社が扱っているものを好きなわけではないはずだ。

経営手腕が優れていれば、会社のトップとしてやっていけるものだろう。
それでも業種によっては、扱っているものへの感情は無視できないのかもしれない。

五年前、近くにいた大塚家具の社員の数人は、みな家具好きのようだった。
当時の大塚家具の社員みなが家具好きなのかどうかまではわからない。

けれど現場に出向いて仕事をしている社員の人たちは、家具好きなようである。
彼らはその後、どうしたのかは知らない。

大塚勝久氏があらたに創業した会社に移ったのかもしれない。
それとも別の会社に転職したかもしれない。
少なくとも、あのまま大塚家具で仕事をしているとは考えにくい。

大塚久美子氏が家具好きな人であったら、大塚家具の現状は大きく違っていたのか。
経営手腕が同じならば、そうかもしれないと思うし、
それでもダメだったのかもしれないが、どうなっていたであろうか。

大塚家具をみていると、オーディオの会社はどうだろう、とやはり思ってしまう。
今年は、特にそう思っていた。

Date: 11月 14th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その2)

すこし前に、大塚家具の大塚久美子社長が辞任する、というニュースがあった。

五年前の3月、大塚家具の株主総会があった日に、
たまたまなのだが、大塚家具の社員数人が近くにいた。

彼らは仕事中でも、携帯電話をしきりにみていた。
株主総会の行方が気になってのことだった。

結果が出て、彼らはみな驚いていた。
彼らは大塚勝久氏が勝つものだと信じていたようだった。

なので、これからどうなるんだろうか……、と不安顔でもあったし、
次の言葉が印象に残っている。

「久美ちゃん、家具、好きじゃないからなぁ……」
そう言っていた大塚家具の社員は、みた感じ30代ぐらいの女性だった。

大塚久美子氏は、五年前の時点では、社員から久美ちゃんと呼ばれていたようだ。
家具が好きじゃない人が、家具会社の社長になる。

このことを、ある人に話したところ、
その人は、
「大塚久美子氏は一橋大学を出て、MBAも持っている。これからの大塚家具は、だから伸びていく」、
自信満々で、私にそう言った。

そういうものだろうか、と思いながらきいていたけれど、
反論する気はなかった。
その人は、自分が正しい、といわんばかりだった。

その人の予想が外れたことはどうでもいいことであって、
家具が好きでない人が会社のトップに就く。

このことがあったから、五年前から、大塚家具のゆくえが気になっていた。