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Date: 6月 22nd, 2025
Cate: ジャーナリズム, ステレオサウンド

編集者の悪意とは(その31)

書き手だけでなく、それぞれのオーディオ雑誌のリファレンス機器にも、個性、カラーはあらわれていた。

スピーカーシステムは、ステレオサウンドはJBLの4343、
1980年代になり後継機の4344だったが、
他のオーディオ雑誌は違っていた。

それが良かった。いまはどうだろうか。
優秀なスピーカーシステムならば、どのオーディオ雑誌でもリファレンス機器とする──、
そういう見方、捉え方もできるが、
何も優秀なスピーカーシステムは一つだけではない。

他のブランドにも、優秀なスピーカーシステムはある。
なのに、いまのオーディオ雑誌は、とあえて指摘するまでもないだろう。

昔はスピーカーシステムが違えば、アンプも違っていた。
このことですぐさま頭に浮ぶのは、Lo-Dのパワーアンプ、HMA9500である。

MOS-FETを出力段に採用したアンプは、長岡鉄男氏が高くて評価されてたし、
自宅でも使われていたから、長岡鉄男信者、長岡教信者の間では、
高い人気と評価を得ていたが、ステレオサウンドでは、その熱気がウソのような取り上げられ方だった。

HMA9500は、だから中古市場でも人気のようだが、
私はそのことを傍観者として眺めている。

HMA9500が優れていたとかそうでなかったとか、言いたいのではなく、
HMA9500は、オーディオ雑誌によって、取り扱われ方の熱気が違っていた、ということだ。

Date: 6月 21st, 2025
Cate: ショウ雑感

2025年ショウ雑感(その3)

今日、明日開催のOTOTEN。
行くつもりでいたけれど、今日もダメで明日も行けそうにない。

どんな感じなのだろう、と思い、X(旧twitter)で検索してみると、かなりの数が表示される。
若い人と思われる投稿多い。
初めてのOTOTENと思われる人も、けっこう多い。

ネガティヴな反応ではなく、楽しんでいる感じが伝わってくる。

OTOTENは、インターナショナルオーディオショウは違う。
そのことが今年はよく出ているように感じるだけでなく、うまくいっているようにも感じられる。

Date: 6月 20th, 2025
Cate: ジャーナリズム, ステレオサウンド

編集者の悪意とは(その30)

私がオーディオ雑誌を初めて手にしたのは1976年の終りごろだった。
まずステレオサウンドがあった。
ステレオがあった、オーディオピープルが、サウンドメイトが、別冊FM fan、ステレオ芸術、サウンドレコパルが、オーディオアクセサリーなどがあった。

それぞれに、その雑誌を代表すると言える書き手(オーディオ評論家)がいた。
この雑誌しか書かないという専属制ではなかったけれど、
ステレオサウンドならば、菅野沖彦、瀬川冬樹の二人を中心に、
井上卓也、上杉佳郎、岡 俊雄、長島達夫、山中敬三といった顔ぶれだった。

これらの人たちが、他の雑誌には書かないわけではなかったけれど、
活動の中心としてステレオサウンドがあった、と言える。

他のオーディオ雑誌には、それぞれの人たちがいた。
ステレオ、別冊FM fanには長岡鉄男がいた。
オーディオアクセサリーには江川三郎がいた。

他の人たちも、どれかのオーディオ雑誌を活動の拠点としていた。

そのことが、それぞれのオーディオ雑誌の個性(カラー)を生んでいた。
それが、いまはどうだろうか。

書き手の顔触れだけで、どのオーディオ雑誌なのか、昔はすぐにわかったものだが、この点に関しても、いまはどうだろうか。

Date: 6月 19th, 2025
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その32)

JBL D44000 Paragon。
死ぬまでに一度鳴らしてみたいスピーカーの筆頭だ。

パラゴンが、私にとっての終のスピーカーとなることはあまりないけれど、
一年間、じっくりと取り組んでみたい、といまでも思う。

パラゴンとともに大きな部屋が欲しいわけではない。
オーディオ専用の空間であれば、六畳間くらいの部屋でもいい。

パラゴンにグッと近づいて聴く。小音量で鳴らしたい。
だから、静かなオーディオ機器を用意したい。
電源トランスも唸らず、空冷用のファンもないアンプで鳴らす。

ローレベルのリニアリティ、S/N比の良さだけでなく、
ローレベルのリアリティの優れたアンプを持ってきたい。

Date: 6月 18th, 2025
Cate: ディスク/ブック

Beethoven Für Elise

今朝、facebookを眺めていたら、アルフレッド・ブレンデルが亡くなったことを知った。

若いころ、ブレンデルは好きなピアニストではなかった。才能、実力はすごいと思っていたし、
コンサートにも行ったことはある。
でもブレンデルの新譜が出れば必ず買うわけではなかった。

どうしても好きなピアニスト、演奏家のディスクを買うほうを優先する。ブレンデルでは、後回しになってしまう存在だった。

ブレンデルを、そんな頃よりも少し好きになったのは、フィリップスから出た「エリーゼのために」を聴いたからだった。

このアルバムには「エロイカ変奏曲」も収められている。
こちらの方がメインだろう。
でも私の耳を捉えたのは、「エリーゼのために」だった。

Date: 6月 18th, 2025
Cate: ジャーナリズム, ステレオサウンド

編集者の悪意とは(その29)

前回、書いた「編集者の善意」について考えていて思い出す記事がある。
ステレオサウンド 95号の特集、
「最新スピーカーシステム 50機種 魅力の世界を聴く」の巻頭座談会である。

菅野沖彦、長島達夫、山中敬三、三氏による座談会の最後の方で語られていることだ。
     *
──たとえばJBLのK2が『ステレオサウンド』誌上で高く評価されていますね。タンノイしかり、エレクトロボイスしかり。一方あたらしく出てきた平面型スピーカーのように、K2ほどには評価が高くないのは……。
菅野 人によってものすごく評価してるよ。
長島 視点の違いですよ。
菅野 つまるところは人間なんですよ。その人の音の世界、音楽の美の世界にとっては、もう素晴らしいものになる。たとえばアポジーの好きなX氏にとっては、おそらくアポジーと出会うことによって、オーディオの世界が完成したと思うんだよ。X氏は意識しないうちに、あの世界を彼の理想のオーディオ世界としてイメージしていたんだろうと思いますよねそれは人によってみんなちがうんだ。世の中うまくしたもので、理想の異性の顔って、一人として同じということはない。
山中 だからうまくいっている。
菅野 スピーカーもそれと同じだと思うんですよ。
 レベルの差じゃない。X氏にとって、あれはほんとうに理想の世界なんですよ。たまたまX氏と同じような感性の人が少ないだけ……。
長島 ここの場にはね(笑)。
山中 それだけのことなんです。雑誌の好みといってもいい。この雑誌に関わっている人たちの好みが反映しているかもしれない。
長島 それは雑誌として非常に大事なことだね。
菅野 雑誌のカラーだからね。
長島 普遍的なほうがいいという一般論があるけど、これは違うと思う。
菅野 雑誌はやっぱりひとつの主張とカラーがないと意味がない。特にこういう趣味の雑誌が八方美人だったら困る。
     *
編集者が八方美人になることは、編集者の善意なのだろうか。
この座談会が行われた時代は、まだオーディオ雑誌それぞれに「雑誌のカラー」が残っていた。

Date: 6月 17th, 2025
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その36)

昨晩の(その35)に、facebookにコメントがあった。
《伝言ゲームの中で、情報が損失されている印象。》

このことは私も感じていた。
オーディオに限らず、いろんなところにあることだろうが、
特に趣味の世界では、その傾向は強いように感じることがある。

ソーシャルメディアの普及は、特にそうである、とも言える面を持っている。

しかも伝言ゲームは、往々にして大事なところから伝わらなくなる傾向も持つ。

オーディオにおいてそれを正していくのが、オーディオ雑誌の務めなのだと思うのだが、
そんなことを微塵も考えていない編集者もいるように感じている。

Date: 6月 16th, 2025
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その35)

(その34)で終りのつもりだったのだが、そういえば、と思い出したことがあったので、また書いている。

ずいぶん前のことだが、池田 圭氏が
《シングルアンプは電源を作るようなものである》、
そんなことを書かれていた。

その通りである。
なのに、いまではそういうことを書く人は、いるのだろうか。

わかっていても、もう書かなくてもいいだろう、と思っているのか、
それとも、わかっていないだけなのか。

わかっていない人がいるのはわかるのだが、
初心者には五極管のシングルアンプがいい、とすすめる人もまた、このことがわかっていないのだろう。

わからずに初心者にすすめる。そんな時代になってしまったのか。

Date: 6月 15th, 2025
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(エルカセットのこと・その2)

カセットテープはフィリップスの特許に基づいているため、
その規格を勝手に変更はできない。

カセットテープのテープ速度
を、ナカミチは半速、マランツは倍速にできるカセットデッキを発売したけれど、
後に続くモデルが登場しなかったのは、特許があってのこと。

エルカセットは、その点、自由だったはず。
オープンリールテープと同じ1/4インチ幅のテープを、
カセットテープと同じようなハウジングに収めたものだから、
オープンリールデッキがテープ速度を選択できたように、
半速、倍速が装備されていたら──、
当時も思っていたし、こうやってエルカセットについて書いていると、
余計にそんなことを考えてしまう。

それでも遅かれ早かれ、エルカセットは消えていっただろう。

Date: 6月 14th, 2025
Cate: Jazz Spirit

LOCKWOOD Major(その2)

ロックウッド Majorと同時代で、
同じ15インチ口径の同軸型ユニットを搭載していたタンノイのスピーカーシステムには、Ardenがあった。

ロックウッドに興味があった中学生だった私は、MajorとArdenのスペックを比較して、疑問を持っていた。

Ardenの外形寸法はW66.0×H99.0×D37.0cm、重量は56.0kg。
ロックウッドのMajorの外形寸法はW71.0×H114.0×D44.5cm、重量は54.0kg。

同じスピーカーユニットを搭載し、Ardenよりも堅固なエンクロージュアの造りで、しかも外形寸法も大きいにも関わらず、
なぜかカタログ発表値は、Majorの方が軽い。

しかも15インチ口径の同軸型ユニットを二発搭載している上級機のMajor Geminiの重量も54.0kgである。

タンノイのHPD385Aの重量は14kgと発表されていたから、本来ならば、Major Geminiは10kg以上重たいはずなのに、である。

おそらくなのだがロックウッドの54kgというのは、エンクロージュア単体の重量なのだろう。

Date: 6月 13th, 2025
Cate: Jazz Spirit

LOCKWOOD Major(その1)

以前、別項で、もしジャズ喫茶をやることになったら、スピーカーは、イギリスのロックウッドのMajor Geminiを第一候補と考えていると書いている。

ロックウッドはタンノイの同軸型ユニットを採用し、エンクロージュアを独自製作したスピーカーを手掛けていた。
1970年代、シュリロ貿易が輸入元だった。

音は聴いたことがない。オーディオ店に展示されていたのを見ただけである。

同じタンノイのスピーカーユニットでも、タンノイ・ブランドのスピーカーシステムとは、ずいぶん違う音を聴かせてくれるそうだ。
エンクロージュアも、タンノイのモノよりもずっと堅固に作られている、ということだった。

この点に関しては、実際にロックウッドのスピーカーを手に入れられた方の話によると、それほどでもないらしい。

それでもロックウッドのスピーカーの音は、
瀬川先生、長島先生の書かれたものを読んでは、鳴らしてみたい、と想いを募らせていた時期がある。

シュリロ貿易がオーディオから離れてロックウッドを輸入することところはなかった。
ウワサも聞かなくなっていたから、会社がなくなったものだと思っていた。

実際、1980年代に火災にあって会社はなくなったが、創業者の孫が2017年に復活させている。
いま、ロックウッドは健在だ。

タンノイの15インチ口径のユニットを二発収めたMajor Geminiはラインナップにはない。
でも一発の方のMajorはある。

現行製品のMajorは、タンノイのどのスピーカーユニットを搭載しているのか。
ウェブサイトには、“15 Inch (385mm) Lockwood Green HPD/SL”とある。

HPDなのか。
耐入力、出力音圧レベルを見ると、HPD385のようだ。スピーカーユニットの写真を見ることはできないので、
これ以上のことはなんともいえない。

それでも聴いてみたい、そして鳴らしてみたいスピーカーシステムである。

Date: 6月 12th, 2025
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(KT88プッシュプルとタンノイ・その20)

ダイナコのSCA35は真空管プリメインアンプだから、専用とはいえウッドケースをつけるのは、
放熱の点では好ましくない。

同時のダイナコの輸入元はハーマン・インターナショナルだった。
なんとなくなのだが、ウッドケースは日本で企画され製造されたものではないだろうか。
そんな気がしてならない。

別にそれでもいいと思っている。
放熱が心配なだけで、問題ないとわかったら、今も欲しい気持は残っている。

私が使っていたのは、信頼できる人が整備してくれたモノで、
出力管の6BQ5は、シーメンスかテレフンケンのEL84になっていた。
真空管の選別をきちんとやれば、SCA35はローコストの真空管プリメインアンプにしては、
なかなか品のある音を出してくれる。

いまの時代、SCA35的なアンプを求めようとなると、何があるだろうか。

Date: 6月 11th, 2025
Cate: audio wednesday

audio wednesday (next decade) –第十八夜(Westrex Londonを鳴らす)

7月9日のaudio wednesdayは、ウェストレックス・ロンドンのスピーカーシステムを鳴らす予定でいる。

野口晴哉氏のリスニングルームの壁には、シーメンスのオイロダインが埋め込まれている。
そのオイロダインの下に位置するのが、ウェストレックス・ロンドン。
オイロダインと同規模のモノ。

ウェストレックス・ロンドンのスピーカーのことはあまり知らない。
過去に二度聴いたことはあるが、別のモノである。

今回鳴らすウェストレックス・ロンドンは、野口晴哉氏が亡くなられてから鳴らされていないようである。
鳴らないということは、まずないだろうが、どんな音で鳴ってくるのかは、全く予想できない。

昨年5月のaudio wednesdayで鳴らしたウェストレックスの757Aのような驚きを体験できるのか。

Date: 6月 10th, 2025
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のこと(ベートーヴェン観・その2)

6月4日のaudio wednesdayで、ジョージ・セル指揮ウィーン・フィルハーモニーによるベートーヴェンの「エグモント」をかけた。

長島先生が、よく試聴レコードとして鳴らされていたし、CDが登場して数年経ったころ、
音楽之友社が独自にCD化したこともある。

そのころ、名盤と言われていても、なかなかCDにならないアルバムがけっこうあった。
音楽之友社は、そういったアルバムを限定で復刻していた。
セルの「エグモント」の解説は、黒田先生が書かれていたと記憶している。

もちろん、この時、セルの「エグモント」のCDは買った。今回鳴らした「エグモント」は、タワーレコードが独自復刻したもの。

セルの「エグモント」ということは言わずにかけた。かけ終ってから、セルだ、と伝えたところ、
曲名検索アプリのShazamでは、モントゥーと表示される、と言われた。

Shazamも間違えることもあるんだ、ぐらいで受け止めていた。
audio wednesdayを終え帰宅したのは日付が変ったころ。
「エグモント」の件が気になって、モントゥーの演奏を検索する。
序曲だけだから、長いわけではないから、これ一曲、聴いてから寝よう。
そんなふうに書き始めた。

「エグモント」を聴き終って、ベートーヴェンの交響曲第三番も、冒頭だけ聴いてみよう、と思った。
最後まで聴いていた。

菅野先生は、コリン・デイヴィスのベートーヴェンの「序曲集」も高く評価されていた。
録音だけでなく、まさしくベートーヴェンだ、と、その演奏も高く評価されていたし、
児玉麻里/ケント・ナガノのベートーヴェンのピアノ協奏曲についてもそうだった。

モントゥーのベートーヴェンについて、菅野先生と話しておけばよかった……、とおもっても遅すぎる。

Date: 6月 9th, 2025
Cate: 「ルードウィヒ・B」

絵師ムネチカ

6月12日に、さそうあきら氏の「絵師ムネチカ」が発売される。
第一巻と二巻、同時発売だ。

「絵師ムネチカ」は、webアクションで連載中で、私はそれを読んでいる。とはいえ毎回欠かさずというわけではないので、
今回の単行本の発売は待ち遠しく感じている。

「絵師ムネチカ」を読んでいて、さそうあきら氏の作品の主人公は、
どこかパルジファル的だ、と確信するようになった。

以前から何となく感じていたことだったが、「絵師ムネチカ」でも、そう感じた。

8月6日のaudio wednesdayでは、さそうあきら氏にDJをお願いしている。